恩恵

 僕の顔を見ながらしみじみと「効くんですねぇ」と笑顔を浮かべながら言ってくれた。だから僕は褒め言葉として受け止めた。これが同じ言葉を発せられても、薄ら笑いとともにではまともには受け取れない。長年田舎と言うハンディキャップを背負いながら仕事を続けてきたのでその辺りには敏感だ。  確か大阪から引っ越してこられた夫婦だ。定年退職して田舎に住む人が時々こうして牛窓を選んでくれる。温暖な気候と海辺と言う立地と、垢抜けない住人達が心地よいのだろう。だから当然、商業施設にしても垢抜けないから、近隣のスーパーにおのずと買い出しに行く。皮肉だが、他所の街のスーパーに行き、牛窓産の魚や野菜を買うことになる。商業施設がもっと整っていたらもう少し牛窓を選んでくれる人が多いと思うのだが、いまいちだ。ただ、昨年ドラッグストアが進出してくれて随分と便利になった。後は、生鮮食料品に特化した大きなお店が1つあれば十分だと思っている。ほとんどのものがインターネットで翌日には手に入るから、町の風景や秩序を壊す全国チェーンの店などいらないのだ。地元の人と本当に触れ合える昔ながらのお店と、消耗品と食料をそれぞれ大量にそろえていてくれる店があれば十分だ。  大都会に住んでいて、どうしてヤマト薬局みたいな薬局と巡り合えなかったのか合点がいかなかったみたいだ。初めて訪ねてきてくれたときの不安で、それでいて何か好奇心をそそられる心理は表情でびんびんに伝わってきた。僕の薬局に入るには度胸がいったのではないか。期待に沿わなければ、何も買い物をせずに出なければならないのに、会話必須の薬局だから。ただ期待に沿うことが出来なかった経験はほとんどない。(薬の効果ではない)  田舎のハンディーと戦い続けた40年だったが、今は田舎の長所に助けられている。岡山市から時々訪ねて来てくれるある女性が、駐車場がプロの手によって大きな花壇に変わっていく様を見て「公園のようですね」と言ってくれた。恐らく娘夫婦もそれを目指しているのだと思う。超ミニチュアだが、薬局と関係ない人でもベンチに腰掛け、鳥の声に耳を傾け、花を愛でてくれれば喜びだから。自分達のためではなく、薬局の前を通る人達の為に花を咲かせる。そうした発想こそが田舎で暮らすことで自然と身につく恩恵だ。