修復不能

 「あれっ、今の電話の方は○○さんですよね、まるで別人ですね」とくみちゃんが言ったが、恐らく多くの人が同じ印象を持っているのではないか。体調がよくなればこんなに話し方が変わるのだ。最初に相談に来たときは薬局の中でのやりとりを聞いていただろうし、2週間後の注文の電話を受けたのがくみちゃんだから、当時(数ヶ月前)と今日の電話の話し方の違いに驚いていた。  しかし、えてしてこんなものだ。話し方がゆっくりとし、相手の言うことを遮ることなく最後まで聞くことが出来れば、心は落ち着いている。伝えなければならないことを 漏らさず伝えられるし、教えを請わなければならないことは素直に聞いて知識に変えることが出来る。こうしたよい循環がますます心のトラブルからの解放を早める。  見るからに高級そうな皮の服。片手をズボンのポケットにつっこみ、斜に構え報道陣に北の将軍様かと思えるような尊大な態度を示す。これが僕の唯一持っている、汗をスーツに垂らしながら怯えたように答える男の過去の記憶だ。こんなやつを選んだ人達の程度を疑っていたし、こんな奴がひっぱてくるスポーツ祭りに胡散臭さを感じていた。そのスポーツ祭りどころかもっと次元の低いところで露呈された胡散臭さに、まだまだ自分の感性が衰えていなかったことを証明された気がする。  多くを得て尚満たされない人間たちのせいで、ささやかな安心さえ得られない多くの人達が、命さえ奪われる時代が又来る。病気は治すことが出来るが、本性は修復不能だ。制御不能の人格が大手を振って歩いている。まるでゾンビの映画を見ているようだ。