独房

3月上旬の平日、都内有数の繁華街にある大規模パチンコホールAを訪れた。
店内の様子は、通常時とそれほど変わりはない。平日の夕方ということで、客入りは7~8割程度だろうか。新型コロナウイルスが話題になる前と同程度の集客である。少なくとも“ガラガラ”という雰囲気ではない。
客のマスクの着用率は“いつもよりちょっと高め”といった程度。正確にカウントしたわけではないが、半数以上の客はマスクをしていなかった。
喫煙者が多いからなのかもしれないが、そもそもパチンコファンは、普段からマスクの着用率がそこまで高くない。新型コロナウイルスの影響で、都内の朝の通勤電車では8割くらいがマスクを着用しているイメージだが、そういった光景に比べると、パチンコ店を訪れる客のマスク着用率はかなり低いのが実情だ。

 なんて親近感の持てるレポートだろう。元パチプロの僕としては、してやったりの感がある。超劣等生の唯一の居場所だったかつてのパチンコ屋は、紫煙で離れたところも見えにくいくらいだった。ギャンブル中毒を掻き立てるような大容量の音楽、うらぶれた大人たち、夜の女たち、今にも脱落しそうなサラリーマンたちで溢れていた。そんな人間たちが、マスクをして病気を防ごうなんて思うはずがない。コロナなどよりもっともっと深刻な中毒にかかっているし、そもそも日の当たる生活などそもそもしていないのだから、失って怖いものなどそんなに持っているはずがない。病気にかかるより財布の中のお金がなくなるほうがよほど恐ろしい。
 がんばれパチンコ屋。がんばれパチンコファン。あなたたちの動揺せぬ姿こそこの国の勇気。投票にも行かず、政治に何も期待せず、ただひたすら精神が理由で落ちてくる者たちの受け皿になってくれる。僕の青春の6年間を隔離してくれた心の独房。