第二の人生

 ある大病院の先生が、患者さんが示したお薬手帳を見て「これは漢方薬をよく勉強している専門の先生ですね」と言ってくれたそうだが、息子が本格的に患者に漢方薬を出し始めたのは9ヶ月前からだ。それまでは、なんとなく〇〇〇の漢方薬を時々は使っていたみたいだが、興味も持っていなかったし、知識もなかった。日本中の医療機関でありふれた光景だ。必要もないのに、必要が無い患者に出していたに違いない。薬好きの日本人は、薬をもらわなければ納得しないから、そんなときには〇〇〇の漢方薬は便利なのだ。効かないけれど害もない。この絶妙のバランスは、ほとんどの医師に使ってもらうには大切だ。なにやら健康食品なるものと似ている。  着実に免疫と血液成分の数値が下がっている女性は、ある値まで下がると入院を迫られる。そこで息子に相談したそうだ。保険適用の生薬で何処までできるかわからなかったが、2人で考えた。薬局だと使える最重要生薬は保険適用外で使えないから、工夫に工夫を重ねた。それを飲み始めて2ヶ月過ぎての検査で、はじめて免疫の数値が上がった。貧血もなくなった。息子のところに来るまでずーっと下がり続けていたのが、反転した。運がよければ、もっともっと健康になってあの辛い治療を受けなくてすむかも知れない。  30年漢方薬を勉強してきて、病院でしか使えない処方も勉強していた。使う当てはなかったが、いつか役に立てるかもしれないと大切にノートに書き込んでいた。田舎の医院に帰って来た息子が何故か漢方薬を本気で患者に使ってみると言い始めて、医師向けの処方を2人で考えている。病院は保険の縛りがきつくて、何でも使える訳ではなく、玉不足はぬぐえないが工夫してまかなっている。  患者さんは処方箋を持って、わざわざ車で10分くらいかかる僕の薬局に漢方薬をとりに来るが、全員に症状を僕は確かめている。息子がベストの処方を組んだか、薬剤師として確かめている。中には、この人のために息子は転職したんだと言うような人も出始めている。息子に会わなければ人生が辛いものでしかなかった人たちが、「第二の人生」と表現して喜んでくれる姿を見るのは嬉しい。  早く知識を娘と息子に伝えきって、2倍も3倍もの人たちのお役に立てればと思う。