大量

 「65年分の漢方薬処方箋・・・調剤報酬を架空請求 薬局経営者逮捕」と言う業界ニュースの見出しを見ても何の意味か分からなかった。1965年に何かあったのかなと軽い気持ちで本文を読んだ。ところがその記事がずっと気になっていたことと結びついたような気がした。確かめる術がないから断定は出来ないが、やはりとんでもない量の生薬を処方する医師が世の中にはいるんだと納得した。  ある薬局の経営者が従業員を仮病で病院にかからせ処方箋をもらった。2年間で24回病院にかかりその都度処方箋をもらったが、実際には調剤していないのに、調剤したようにして国に請求して1400万円あまりをだまし取った。「他の病院で大量に薬を処方してもらった。飲むと全身が良くなった」と言うのが常套文句みたいだが、これで処方箋を書いてしまうと言うことは、実際にそんな処方箋が実在するからだ。単純に割り算をすると1回の処方箋が50万円にも上るのに。  僕も数年前にそんな処方箋を調剤させられたことがある。漢方のことを知らない薬局なら抵抗なく作るだろうが、僕はその処方箋の生薬のg数に驚いた。例えばオウギと言う生薬が、1日分80gだった。僕はオウギの効果を出すには4gでいいと思っていたからびっくりした。他の生薬も同じように考えられないような多さで、思わず医師に電話で尋ねた。医師は漢方薬を標榜している人で自信を持ってそれでいいと答えた。医師の確たる自信処方だから薬局に拒むことは出来ない。なんとなく違和感を持ちながら作った。その後数人が同じように大量の生薬が処方された処方箋を持ってきたが、作りながら後味が悪かった。特注の袋に入れて患者さんに渡したが、よくこれが保険で認められると不思議に思った。  ひょっとしたら関西の今度の事件は、そうした大量に使うことを良しとしている医師の処方が模倣されたのかもしれない。普通の医師がそのような処方箋を発行したらすぐに社会保険事務所から調査されるだろう。それがなかったってことは、日常の診療でごくありふれた処方だと思えるような実績があるところの出だってことだ。生薬が地球上から枯渇しているときにもったいないと思っていたが、それを悪用して国からお金を巻き上げる知恵者もいた。どの業界にも東京の「巻き添え」みたいな奴はいるものだ。