造船所

 「瀬戸内海には防波堤がない」と大手の造船会社の所有者がテレビの対談で話をしていた。瀬戸内海自体が天然のドックのように穏やかで、波は島々が防いでくれるから、防波堤は必要ないというのだ。とすると、僕は瀬戸内海で、防波堤なるものを見たことがないことになる。ただ、海岸沿いを歩いたり車で移動すると、道路の海岸よりに明らかに高い塀のようになっているところが至るところにあるのだが、そしてその多くは、子供のスリリングな遊び場や釣り人の特等席になっているのだが、ひょっとしたら、防潮堤なのかもしれない。今までの概念から言うと、そして慣習から言うと、防波堤と呼んでいたように思うのだが。  それがどうしたって事になるのだが、自治体や企業にとっては重要な問題らしい。防波堤を作る必要がないのだから、莫大なお金が倹約できることになる。だからこれからも瀬戸内は造船などを始め企業を誘致するのに適しているって事らしい。最近は企業の撤退はあっても進出はないから、ぴんと来ないが、何十年先、僕らがいなくなったころには想像も出来ないような変化が起こっているのかもしれない。さすが経営者で楽観的な予測をしているが、庶民にはそこまで待つ生活基盤はない。今日が、せめて明日が問題なのだ。  先先代が塩田跡地に造船所を作り、それが今や従業員3000人の企業城下町になっている。同じ瀬戸内で、塩田もあり、造船所もあった我が町とは雲泥の差だ。ただそれで逃したものより、それで失わなかったものを大切にし、多くを得るのではなく、多くを失わない生き方に身を委ねる町であればいいと思っている。