無防備

 英国立医療技術評価機構や米国精神医学界が作成している診療ガイドラインの中で ①認知行動療法などの精神療法を薬物治療に優先して実施する方が有効 ②依存性の高い薬物(睡眠薬抗不安薬等)については長期に使用しないこと ③プライマリケア(一般医、家庭医)では抗ウツ薬の併用療法は行わないこと などが取り上げられている。そしてこれらを実践することで両国では自殺の予防に貢献している。このことが厚生労働省自殺・ウツ病等対策プロジェクトチームから示された。薬物の過量服薬による問題にやっと腰を上げた感じだ。  ところがこんな事今更言われなくても当たり前の話だ。逆に言うと上に書かれているとおりのことが今まで行われなかったって事だ。いやこんな通達が出ても恐らくこれからもほとんど変わらないと思う。ルボックスなどが発売されて一気にウツの患者が増えた(ちょっと心の不調を訴えると専門医でもない医師が気楽に処方した)。発売された年にどうして何倍にも患者が増えるのだろう。あり得ない話だ。医師が製薬会社の口車に乗って治療ではなく商売したのだ。患者はたまったものではない。話すたびに薬が増えるから医師の前ではもう何も訴えないという人さえいる。心の不調を訴えて受診した人が、一杯話を聞いてもらって、日常生活の工夫で乗り切れるように指導された人がどのくらいの割合でいるだろう。患者の顔も見ないでパソコン画面に向かってキーボードを叩き、即薬を処方されるのがおちではなかったのか。僕の薬局も処方せん調剤をしているが、ほぼ全員の人が長期投与だ。10年以上の人も一杯いる。治すという医師と治したいという患者の両方の意志を感じたことがない。又診療科以外でも主なる薬に結構精神安定剤がくっついて処方されている。日本人は安定剤という言葉が好きなのかどうか知らないが、結構無防備に飲んでしまう。所詮睡眠薬と親類なのに朝から飲んでいる。  この通達が本当に参考にされるなら、まず開業医で安定剤などが最初から出る事はなくなるし、少しでも長く飲みそうだったら、この辺りで減らす工夫をしましょうと提案があるだろうし、何よりも面と向かって一杯悩みを聞いてもらえる・・・そんな心の病に向き合ってくれる医師だらけになるだろう。そうなると僕らの出番もなくなるから、こちらが心を病みそうだが。