動機

 お子さんをもう20年近くお世話している方が、パニックみたいな症状で毎日辛いから心療内科にかかった。かかったと言っても医師の前には5分くらいいただけらしい。その時間に医師が積極的に情報を収集しようとしてくれたとは思えなかったらしいが、それでも薬が2種類出た。社会不安障害にも効く抗ウツ薬と安定剤だ。飲んだその日から気持ちが楽になって幸せだった・・・・ならいいが、飲む前よりパニックが激しくなって、一晩中じっとしていることが出来ずに、部屋の中を行ったり来たりして怖くて仕方なかったと教えてくれた。その後僕のところでパニックの漢方薬を飲み始めてまだ1回も発作が出ていない。初めから来ればいいが、そんな殊勝な人はいなくて、ほとんどの人が病院で治らなかったから来る。所詮薬局なんて次善の策なのだ。  こんなことを考えていたら今日下記のような記事を読んだ。何を今更と思う。 「統合失調症で精神科に入院している患者の4割が、3種類以上の抗精神病薬を処方されていることが、国立精神・神経医療研究センターの研究でわかった。患者の診療報酬明細書(レセプト)から実態を分析した。複数の薬物による日本の治療は国際的にみても異例で、重い副作用や死亡のリスクを高める心配が指摘されている。これまでも精神科の治療では「薬漬け」を指摘する声が根強くあったが、一部の医療機関などを対象にした研究が多かった。今回の研究では、2011年度から、全レセプトデータを提供する厚生労働省のデータベースの運用が始まったことから、精神科での詳しい薬物治療の実態の調査、分析ができるようになった」  そのお母さんは「もう絶対飲まない」と何度も繰り返した。恐怖が期待より数段植え付けられてしまった。僕のところでは少なくとも1時間は話をする。とてもユーモアがありよく笑う。裏表のない素晴らしい女性だといつも僕は思っているから、病気の話などほとんどせずに雑談ばかりだ。少しでも日常から逃れてほしいから、あればケーキ、なくてもコーヒーだけは楽しんで貰うことにしている。まるで喫茶店の中のようにくつろいでもらえれば幸せだ。僕の未熟な漢方を補うことも出来るし。  だから僕の拙い漢方薬でも、時に心療内科の薬よりよく効くのだ。たかが葉っぱで出来たお茶程度のものなのに、パニックが治ってしまう。病気ではなく、半端なく頑張っているお母さんと理解すれば、自ずと対処の方法は浮かぶ。力を抜いてもらえるようにすれば解決する。僕はヤマト薬局ならこそ提供できること全てを動員してそれを追求しているだけだ。高度な医療に比べれば幼稚かもしれないが、彼女を「病人」には決してしたくないと言う強い動機がある。数分に1回くらい大笑いする人を心の病気にしてはいけないと言う強い動機がある。