本場

 この2週間、まるで合格発表を待つ学生のような気分で過ごした。2週間前、同じ日に東西から僕の常識では新幹線以外あり得ない距離から2組の方が漢方薬の相談に来てくれた。費やしてくれた時間と労力を考えると、効果がなかったで許されるものではない。幸い2週間たってどちらからも電話を頂いて効果が出始めているらしいから胸をなで下ろしている。近くの人は効かなくても気にならないと言うわけではないが、プレッシャーは比較にならない。  近隣の市からやって来た方が、花粉症の漢方薬を病院でもらって飲んでいるけれど全く効かないと言って処方を見せてくれた。四物湯と六味丸だった。又その方のお父さんが身体が痒くて同じように漢方薬をもらっているのだが疎経活血湯と八味丸だった。漢方薬の場合流派が異なれば処方もかなり違うが、この処方には正直驚いた。前者は婦人科にでも使おうかと思うし、後者だったらロコモの処方に近いと言える。なんでも中国から偉い先生が来て処方してくださるのだそうだが、僕らの漢方の常識から言うと理解を超えている。中医漢方薬の違いかもしれないが向こうのお医者さんが実際には診断して、日本人のお医者さんの名前で処方せんを切るのは若干の無理がある。日本のお医者さんの方がはるかに優秀に見えるから遠慮しないで良いと思うのだが。漢方の「本場」が邪魔しているのだろうか。そんなにお医者さんでも謙遜なら僕ら薬剤師は立場がない。  医療経済という言葉があるように、医療もどっぷりとお金の世界に浸かっているから、なりふりかまわずなのだろうが、カリスマではなく地道が評価されて欲しい。僕の背中には30年近く前に頂いた「地道薬材」と言う台湾の漢方薬メーカーの社長の書が掛けてある。日本語で言う地道とは意味が違うらしいが、勝手に「じみち」と読んで戒めている。この歳になっても今だ戒めるべきものばかりで恥ずかしい限りだ。