生活費

 学生の生活費が30年前とほとんど同額で困窮状態にあるとニュースが伝えていた。今も30年前も月平均7万円弱で暮らしているらしい。物価が当時よりかなり上がっているから同額では当然苦しいと言うことになるのだろう。でもその頃、1万円程度で暮らしていた僕はどうなるのだろう。当時平均が7万円なら僕は7分の一で暮らしていたことになる。僕を中心に考えると当時の生活費の平均が7万円という数字はぴんと来ない。回りの学生が僕の7倍の生活をしていたようには見えないのだ。もっとも、アパートの隣にあった料理屋は鶏の唐揚げがとても美味しかったが、月に1回利用できればいい僕とは対照的に毎日利用していた人達もいた。仕送りが多いのか、バイトで沢山稼いでいたのか分からないが、それを羨ましいとは思わなかった。 遊びはパチンコだけ、食事は米に塩をかけて食べる、アパート代は3千円、タバコは両切り。バイトも大したことはしていないから恐らくいつも赤字だったと思うが、誰かが助けてくれていたのだろう。誰かを経済的に助けた記憶がないからもらいっぱなしだったのだと思う。僕には金がないで通っていたからとても楽だった。  7万円を困窮状態などと考えない方がいい。ぎりぎりの生活を経験すればいいのだ。法律さえ破らなければ破壊的な生活もけっこう楽しい。学生時代にしかできない暮らしぶりを楽しめばいいのだ。作為的にでもぎりぎりの生活を体験すれば、将来本当にそうした状況で暮らしている人とも理解し合える。恵まれた暮らしをしている人に知り合いが少ないから、そちら側の人柄を良く知らないが、そちらに行けなかった人達の中には沢山の善人がいる。人から搾取しないで暮らしてきた人達の脱力した善良に慰められたり助けられたりすることはしばしばだ。そうした人達と親しく生きていける土壌を学生時代作っておけばいいのだ。教室では決して教えてもらえない、学べない価値観を作ればいいのだ。  意図的でもいいから体力があるうちに最低を経験しておけばいい。そうするとその後の不運な巡り合わせも乗り越えやすい。社会に解き放たれればいいことなんかそんなにあるものではないのだから、体力がある間に免疫をつけておいた方がいい。ワクチンは自分の決意の中にある。