晩年

 僕はこの歳になって初めて、リクルートされた。リクルートと言う言葉の意味を正確に分かっていないから正しいかどうか分からないが、要は、一緒に働かないかと提案されたのだ。  提案してくれたのが、こともあろうにかの国の次女と三女なのだ。2人は今岡山の日本語の専門学校で勉強しているが、卒業して帰国したら、会社を興したいそうだ。そこで日本語が出来るスタッフが必要らしくて、僕に白羽の矢が立ったわけだ。もう何年も前から一度国に遊びに来てとひつこく誘われていたが、仕事を一緒にしようと提案されたのは初めてだ。僕が観光などと言うものにほとんど興味を示さないことがわかったからでもあるまいが、視点を変えてのアタックだ。  僕が仕事好きなのをよく知っていて、仕事を与えれば長くいてくれると思ったのか、それとも安上がりな日本語使いに思われたのか。と言うのは、二人が日本に来る前に首都で3万円で暮らしていたと言うから、一人当たり1万5000円で済む計算だ。どうせ僕などすることもないから2万円も払えば十分位に思っているのかもしれない。まだ会社を興してもいないのに、金は知り合いに借りる、許可書は賄賂を払えばもらえるなどと、およそ日本では考えられないような内容で盛り上がっている。僕も給料をもらったらいくら国に送金しようかなどと、スリルを楽しんだ。  研修生で働いていた3年間、学生として再来日を果たした半年間、願い事はほとんど聞いてあげたから、最後の願いもかなえてあげたい。擬似家族で僕をとても大切にしてくれる彼女達の役に立てるなら、晩年を何処で過ごしてもいい。