贈呈式

 ああ、やっぱり苦手中の苦手だ。行くべきではなかった。  瀬戸内市薬剤師会の支部長から電話があり、今日の昼過ぎに公民館に来てくれと言う。何事かと思いきや、薬剤師会が市内小中学校8校にAEDを寄付するという。その贈呈式をするから来てくれと言うのだ。会場がほんの我が家から200メートルくらいしか離れていないので白羽の矢が立ったのだろう。 教育委員長の部屋に入るとすでに支部長がAEDを拡げて説明していた。教育委員会側は牛窓の良く知っている人二人と、いつか国保委員会で責任者的な立場に立って会議を進行していた人が出席していた。傍らで新聞社の若い記者がカメラを構えていた。実は薬剤師会の邑久支部が各学校にAEDを寄付することを僕は知らなかった。支部会に過去30年間で1度しか出席したことがないから知らないのも当たり前なのだが、率直に良い判断をしたなと感心した。たまに役立つことが出来ると嬉しいものだ。どうせ何十年もあてもなく積み立てていたお金だから、有効に使えればそれにこしたことはない。視点を変えれば、お金を使うほど活発でない支部会というあまり誉められたことではない結果のお金なのだから。貯まった理由は寧ろ恥ずかしいようなものなのだ。現に活発な活動をしている支部会はお金が足らなくて困っているのだから。  新聞記者が同席するのは支部長から聞いて分かっていたから、と言うより、一人では格好にならないから同席してと言う話だったのだが、支部長が白衣にするかスーツにするかと尋ねたので、白衣だけは止めてとお願いしていた。近いからどうせ歩いていくことになるのは分かっていたから、仮装行列に間違われそうだ。僕のスーツ姿でも仮装行列並みの違和感なのだから。結局、間をとってブレザーで行った。道中、新聞に写真が載るのはいやだからどうやって断ろうかそればかり考えていた。カメラを構えるたびに、Vサインを出し続ければ呆れて写さないだろうかとか、鼻を指で上に向け豚の真似をすれば写さないだろうとか。なかなか良いアイデアだと内心ほくそ笑んでいた。  話が一段落した後、新聞記者に職員が促して写真を撮ることになった。すると教育委員会側の一番偉い人と支部長がやにわに立ち上がると、AEDを今まさに贈呈するというポーズをとった。そしてシャーッターが数回押された。  なんじゃこりゃー。「先生も一緒に」くらい言えばいいのにと思ったが、僕のもくろみは見事にはずれたが新聞に載ることだけは免れた。悔やまれるのはジーパンで来なかったこと。朝の服装を途中で着替えるのがすごくいやな僕が、必死の思いで着替えたのに。まさに案ずるより産むが易しとはこのことだ。