小雨

 朝の8時でも、小雨が降れば薄暗い。シャッターを開けながら西の方を見ると、いくつかの銀色に輝く光が列をなして近づいてきた。女子中学生が、登校している自転車がどれも同じ色の光りを放っていた。銀色の光り? 最近の自転車は、銀色の灯りがともるのかと、朝一番の発見が新鮮だった。小雨の中を誰一人合羽を着ることもなく、元気良く薬局の前を通り過ぎていった。僕の好きな光景だ。最近は子供の数が減ったから長い列は見られなくなったが、大人になる手前で生命力に溢れている世代の行列はまぶしい。  地元に高校がないから、全員が近隣の高校に散らばる。北に行く子もいれば、東や西に行く子もいる。それぞれの能力、希望に添って選択するのだろうが、夢破れ脱落する子も少なくない。田舎ののどかな雰囲気の中で育ち、都会の切磋琢磨を強いられる環境になじめない子もいるし、悪友に足を引っ張られる子もいる。  ボタン一つはずしている男子中学生も見ないし、スカートの丈を意図的に短くしている女子中学生も見ない。一目散に登校し一目散に下校する。町に子供を育む力があるのだろう。子供であるべき年齢を奪ったりしない。十分子供である時間を持つべきだ。急かされても仕方ない。感性を十分養ってから大人になればいい。子供時代の喪失は、国道を突っ走っている10トントラックだ。人の生活は、国道からそれた脇道や、そこからまだ入り組んだ路地裏で営まれている。運転席から見える風景なんて、小説の表紙でしかない。何も分からないまま、何も感じないまま大人になってはいけないし、大人にしてはいけない。  銀色に輝く灯りは未来を切り開く強い意志。希望が力強くペダルを踏む。濃紺の清楚な制服が錯乱気味の枯れた雨を弾く。