齟齬

 薬の情報誌を読んでいたら「齟齬(ソゴ)」と言う言葉が出てきた。読み方も何となく分かるし意味も何となく分かるが、さてこの字を書けと言われたら恐らく、いや絶対書けていなかった。患者さんとのやりとりを解説する場面で使われていたのだが、なかなか日常では使われなくて、会話では聞いたことがない単語だ。読むのも前後の文脈の流れから読めただけで、試験のように突然提示されたら読めたかどうかわからない。 漢字は子供の時から飽きもせず18年も毎日学校に行きその積み重ねでやっと覚えたものだが、これだけ覚えようとすればかなりの労力を費やしたはずだ。だが、その種の想い出として残っていないのだから、意外と学校に行き勉強をすることに対しての負荷は少なかったのかもしれない。大学に入った瞬間力は尽きたが、それを差し引いても意外と頑張っている。僕に限らず、寒い中をランドセルを背負って登校する児童や、頬を真っ赤にして風を切って自転車を漕ぐ中学生を見ていても思う。意外と学校って行きたくないところではないんじゃないかと。それを証拠に、全く勉強をしそうにない子供だって嬉しそうな顔で登校している。  僕はほとんど興味はないのだが、漢字に異様に強い人がいる。教養かオタクか分からないが、僕は最近オタクに関してとても評価している。こだわりこそが最強のモチベーションで能力を導き出す源泉のように見える。僕にはその様に特化した興味を持てるものがなかったから、何でも出来る子で、結局何も出来ない子だった。この年齢で齟齬を見つけて喜んでいるのだから如何にこの道でも極められなかったか明らかだ。そんな僕の人生なんて所詮たどり着くべきところがなく世間の片隅で齬齟齬齟(ゴソゴソ)生きている虫けらのようなものだった。