童謡

 犬は喜び庭駆け回らず、猫はこたつで丸くならず。嘘を歌わせてはいけない。練乳を買ってきて車の上に積もっている雪にかけて食べれば美味しそうな朝、モコ(ミニチュアダックス)は用を足す草むらを捜して、雪の上を3本足でウロウロしていた。あの小さな頭で、足を一本でも上げていればそれだけ冷たくないのが分かるのだろうか、止まるたびにどの足かを一本上げていた。さすがに不安定だから2本足にはならなかったが、犬でも冷たいのはいやなのだと思った。雪の上を元気に走り回ることもせず、早々に引き上げたい雰囲気が見え見えだった。  アスファルトの上は雪が解けていて本来の水に濡れた色だったから、まさかそれが凍っているとは思わなかった。片側1車線の道路を渡るのに2回も滑って転げそうになった。車の直前を走り抜けるような暴挙をしていなくて良かったと、後から考えるとぞっとした。だから中学校のテニスコートは敢えて草の上に積もっている雪を踏むように歩いた。その方が転倒する可能性が低いと思ったから。でも案の定、草が切れている土の上では転びそうになった。見ると土の上に薄い氷が張っていた。薄氷を踏むような毎日を送っている僕にとっては、なんとも皮肉な氷だった。 帰りも何度か転びそうになってやっと無事に着いた。2階に上がりリビングのテーブルの傍に立っていると、妻がそのテーブルを少し移動させた。するとテーブルにもたれかけさせていた折り畳み式のテーブル、結構大きくてしっかりしているから重たい、が突然倒れた。気がついて思わず足を引っ込めたが、丁度そのテーブルの角が僕の右足の甲の上に落ちてきた。たかがテーブルが倒れてきただけなのに結構衝撃はあった。痛かったけれど折れているかどうかの方が気になった。痛いながら色々な動きをしてみたら指が自由に動いたので安心した。ずっと立てかけたままのテーブルを見て、モコが歩いているときに倒れたら大変だろうなと気になっていたが、結局本人がやられるまでついぞ行動には移さなかった。  なんて危険な1日だったのだろう。地震の時に家具が凶器になることも実感として分かったし、凍った路面の恐ろしさの片鱗も体験した。家の内外に危険は潜み隙あらばと狙っている。でもまあいいか、隙だらけの僕の心を狙う輩はいないみたいだから。持ってなければ狙われない。心も身体も財布までも身軽が一番安全だ。