本末転倒

 昨夜、何の番組だったか忘れたが、ある会社の社長が「今は時代が数倍早く動いている」と言っていた。広大な工場敷地を不景気のために売却するという話題だった。嘗て大きな利益を生んでいた会社らしいが、時代の流れに付いていけずに、整理するらしい。  そんな大きな話と混同しているわけではないが、数倍早く時代が動いているというところだけ耳に残った。実は僕の机の上でまさに同じようなことが進行しているのだ。時代の流れが何倍速でやってくると言った方が的を射ているかもしれない。  毎日郵送やセールスの持参によって様々な薬に関しての資料が届く。以前ならその全てに目を通すことが出来たが今は違う。読んで捨てるものよりはるかに多くの資料が毎日届く。その結果、資料を重ねた机の上の山は次第に高くなり、あたかも乱雑に散らかっているかのように見える。そんなつもりはないのだが、如何にも整理が苦手な人間の机に見える。恐らく同業者には同じようなものが同じくらい届いているのだろうが、果たしてどのくらいの人がこの資料に目を通しているのだろう。僕みたいな暇な薬剤師でさえ、読めないのに、忙しい薬剤師では到底無理だろう。何か大切なことが書かれていて、それを知らないでは後れをとってしまうから、必ず目を通したいと思っているが、それはもう出来ない時代だと悟りつつある。毎日多くの研究の成果が発表され、新しい知識が生まれ、新しい薬品も生まれる。道具の発達は時間の生産性を人間が付いていけないくらい上げた。  読みたい、読めないのジレンマは僕の情緒を侵害しつつあるから、いっそのこと思い切って読まないまま捨ててやろうかと思うが、逃がした魚は大きいの理屈で、なかなか勇気がでない。知識欲を通り越して、知らないことの恐怖のために読むなんて、これがまさしく「本末転倒だ」