痛みで夜が眠れないと言う。愚痴の一つでも言えばいいのに、電話口では相変わらず礼儀正しい。数回会っているから、僕にはその辛さがよく分かる。どうしてこんな人にこの病気がと思ってしまう。これさえなければより快活に、より楽しく暮らしているはずなのに。何の因果か、単なる偶然か、どの様な可能性を考えても納得がいくものではない。どうして選ばれなければならないのか。  役にたちたい。心からそう思う。失った時間を取り戻して欲しい。不可能を可能にするくらいの力が欲しい。耐えて耐え抜いている時間を幾分かでも少なくして、解放感に浸ってもらいたい。笑って食べ、笑って出かけ、笑って恋人と巡り会い、一杯幸せを味わって欲しい。現代医学でもなお改善出来ない病気がまだたくさんある。もっともっと、医学が発達してあの人達を救って欲しい。僕程度の人間を頼らざるを得ない不幸から早く救って欲しい。あの人達が、いっぱい、いっぱい笑っている姿を見たい。  夕焼けが西の空を染めていた。暴れ雨が降っているところもあるらしい。災難や不運ばかりが聞こえてくる。不完全を受け入れれるほど僕は完全ではない。おびえながら生きている野の羊だ。