OTC

 娘が勤めている最大手の調剤薬局チェーンでは、今月OTC(自分で買える薬)を1店につき80万円売らなければならないそうだ。処方箋を調剤する薬局ではかなりきつい数字だと思う。薬剤師が5人いる薬局だから、処方箋を持ってくる患者さんは結構多いと思うが、調剤の合間に薬を売るのはかなり難しい。そこで娘が思いついたのが僕の存在だ。僕はOTC大好き人間だからなにかヒントをもらえると思ったのだろう。30年間蓄積してきたノウハウを他人には滅多に見せないが、こと娘の希望とならと俄然張り切った。  まず娘が勤めている薬局で扱っているメーカーを尋ね、薬を尋ねた。そこで僕が考えたのは、まず医者に治すことが出来にくい症状を選択すること。つぎに単価の高い物。こうなるとこれしかないというものを娘が見つけた。僕はその資料を一杯送ってやった。僕が独自で作ったものや、メーカーがくれたものなどを。するとなんと、資料を薬局内に展示した日に4個もその薬が売れたそうだ。普通の薬局だってそんなには売れない。いやむしろ1ヶ月かかってもそんなには売れないだろう。それをわずか1日で売ったそうだ。この調子だとノルマは達成できそうだと喜んでいた。管理薬剤師さん他の方も喜んで、お父さんに礼を言ってと言われたらしい。恐らく30歳に達しない薬剤師ばっかりの薬局だろうが、若さで挑戦する態度は想像しただけでも楽しそうだ。もう完全に守りに入って、来る人の不調を取り除くだけの僕とは姿勢が違う。可能性を秘めた世代と可能性を思い知るようになった世代との差だ。  今度のことで色々話しているうちに、娘も薬剤師らしくなったと思えるようなこともある。沢山の患者さんが処方箋を持ってやってくるが、薬がよく効いて満足している人は少ないと彼女は気づいている。強い薬でスパッと攻めてやっつけるような治療は現代では必要ない。どのトラブルも不自然な生活で人間が弱くなったせいで起きているトラブルだ。そんな時はマイルドな自然薬がよく役に立つ。「私のお父さんのところに行ったら」と今にも言いそうになるらしい。  そんな娘が、上司に「管理薬剤師になって欲しい」と言われたそうだ。全員に言うのかもしれないが、親としても色々なことに挑戦して、キャリアを積んで欲しいと思っているからありがたい提言だと思っている。若い時にはなにでも挑戦すべきだ。今に老いてなにも出来なくなるのだから。管理薬剤師になったら、お父さんを講師に招くように提案してと娘に言っておいた。全国数百軒もあるそのチェーン薬局が本当に力を入れたら、町の薬局からOTCは消える。なかなか小さいところは生きていくのが難しいが、大きな薬局であんなに若い薬剤師達が頑張っているのだから、何歳になっても年輪に恥じない一隅を照らす薬剤師がいて必要とされていることを見せて上げたい。なにしろ、30歳を過ぎた薬剤師は扱いにくくチェーン薬局には、そんなにいないらしいから。その倍近い年令の僕はそれではどうすればいいのだ。やはり放浪薬剤師しかないか。今すぐにでも会いに行ってあげたい人が数人いるから。