購買意欲

 ある漢方問屋さんから、朝鮮人参のいい物が入ったからどうですかと誘われ、沢山仕入れた。沢山仕入れたので調剤だけでなく健康維持のために飲んでもらおうと店頭に陳列することにした。僕の薬局は漢方薬を多く扱っているが、漢方薬を基本的には店頭に陳列していない。全て調剤用だ。薬局製剤を作ったり、息子が書いてくる処方箋調剤のために使う。漢方薬を店頭に陳列したら誰かが買ってくれるのかどうか僕は知らない。そんな経験がないから、わくわくするがたぶん99%徒労に終わるだろう。でも徒労でもいい。なんとなくそんな行為が楽しい。僕の世代の薬剤師はほぼ全員OTC薬品の販売に携わっていたから、物売りが本来は好きなはずだ。ただ時代の要請で処方箋調剤の比重が大きくなり、経済的には有利だが、なんとなく病院の下請けみたいで居心地が悪い。  まず薬局に入ってきた方の目に止まるように陳列しなければならない。これは簡単だ、沢山仕入れたから山積みしておけば自然に目に付く。次はそれの説明のポップを考えなければならない。思いつくまま効果をメモ書きし、姪に渡してパソコンできれいに作ってもらうことにした。姪はなにやら僕のメモ書きを見て悩んでいるみたいだ。速記みたいな僕の字が読めないのかと尋ねると、「この人参の正式な名前は何ですか?」と迷っていた理由を教えてくれた。と言うのは、製品には人参としか書いていないのに、僕がメモに高麗人参と書いて、なおかつ口では朝鮮人参とかオタネ人参と言ったからだ。姪は分けが分からなくなったのだ。  僕は名前には拘っていなかったので正式名を尋ねられても分からない。恐らくどれも正しいのではないかと思っている。ただ、ポップには正しい名前を書いて購買意欲を掻きたけなければならないから、姪にどれが一番目立つか考えてもらうことにした。。「どれも正しいと思うけれど、次の4つから決めて!」 「・・・・・」 「オッカネエ人参、こおりゃ人参、北朝鮮人参」 「・・・・・」 「売れそう~」