空腹

 今日ある方に、薬局で使えなくなった大きな道具や什器を持って帰ってもらった。軽四トラックにやっと載った。おかげで薬局が少しだけ広くなった。薬局の中はさすがにがらんどうというわけにはいかないが、出来れば住居は何もない簡素な空間にしておきたい。ところが、いつの間にか集まった物達で結構狭くなっている。田舎だから都会のように土地も家も狭くはないが、その田舎の恩恵さえ失っているのではないかと思えるくらい物で埋まっている。恐らく何年も手にしたことがないような物がほとんどだと思うのだが、壊れないから捨てれない。僕はほとんど買い物をしないから、恐らく僕のものは少ないのだと思うが、だからといって家族の物を勝手に処分も出来ないから、溜まる一方だ。  洗面道具と、机と、ホームごたつと、布団と僅かな着替え。これで過ごした10年が気楽で良かった。守るべき物は自分の身体だけだったから全くの身軽だった。所属している物も従属している物もない、全くの身軽だった。部屋にいて、壁を眺める。やがて壁はスクリーンとなり僕の思惟を投影する。色が咲き動きが生まれ音楽が流れる。何もないところに多くの言葉が生まれ、何もかも揃ったところで言葉が滅びる。ほんの少しだけ覗いた壁を見て、失いかけていた空腹の快感を思い出した。