終生現役

 定期的に痔の薬を取りに来るおじいさんが、今日はタクシーでやってきた。いつもなら農作業用の服を着て軽四トラックでやってくるのだが、今日はいでたちも違う。おまけに肩から三角巾をかけて左腕をぶら下げている。石膏から指が覗いていたから骨折したのがすぐに分かる。  どうしたのか尋ねると、最近行われた町を上げてのクリーン作戦に参加して、町内のゴミを拾い集めていたらしい。すると何かの拍子に転んでしまい手を骨折したらしい。財布を取り出すことも、そこからお金を取り出すことも困難で、僕は、彼が焦らないようにたわいもない会話で間を埋めた。  最近頻繁に僕の薬局を利用してくれるようになった人で、名前も住んでいる所も知らないが、何度か来てくれる内に結構打ち解けて、健康以外の会話も交わすことが出来るようになった。それでも律儀なところがあって、必要以上に関係を崩さないようなところがある。そんな人物だから、任意の参加であるクリーン作戦に参加したのだろう。そして悲劇が起きた。良い性質が裏目に出たのだ。  田舎では80歳を過ぎても貴重な戦力だ。1人住まいだからか、家族を代表してからか分からないが、地域を構成する大切な人材だ。遊んで暮らすような人はめったにいない。逆に、終生現役を目指す人もめったにいない。終生現役が回りにあふれかえっているので。