出口

 玉野市と言うところは県南では珍しく切り立った山が多く、花崗岩で出来た岩が剥き出しになり、今にも落ちてきそうなところがいたるところにある。その山の一つを貫通する長いトンネルがある。平生は、四国に渡るフェリーと連絡する為に交通量が多いく、対面通行なので結構緊張する。  今日、いつものように玉野のから帰りに通った。何故かしらないが、今日初めて他の車が全く通らない状態を経験した。いつもなら対向車は勿論、後にも前にも車がいないことなど有り得ない。優しい黄色い光に照らされたコンクリートの巨大な管の中を、一人行くのはなんだか心細かった。半分くらいを進んだところでそのことに気がついたのだが、出口までがいつもより長く感じられた。  実際のトンネルは、アクセルを踏んでおけばいつかは出られる。少し体重を載せればすむことだ。ところが現代は多くの方が抜け出られない、出口のないトンネルの中を今日も懸命に進んでいる。用意されていない出口に向かって懸命に歩んでいるのだ。肉体的なハンディー、心の疲労、貧困、ワーキングプア、ホームレス。救いの手は公平に差し伸べられているのか。為政者は出口の明かりが見えるように心を砕いて岩に立ち向かっているのか。  トンネルの中は、アスファルトにタイヤが粘着する音だけが支配する。コンクリートに反響して増幅されるのは、今そこにある音ではなく、多くの孤独の叫び声なのかもしれない。