末端

真っ黒な濠の中で、女の子の泣き声が響いた。かすかな明かりの中で小学生低学年くらいの少女が家族とはなれたのか泣いているのが見えた。日本軍の将校が傍により、少女の左のこめかみにピストルを当て引き金を引いた。銃声と同時に泣き声が止み、少女が倒れた。泣き声が外に聞こえ敵に見つかるのを恐れた為の行動だ・・・・沖縄で生き残った住民の証言だ。彼らは一番怖かったのは日本人だと言っている。  末端の人間をこんな狂気に走らせる。死ぬのも末端なら殺すのも末端だ。末端にも家族はいるし倫理もある。何もかも奪い去られて野良犬にされれば、残飯をあさるうちに善悪は消えて、余程の人格者でない限り、生きるだけの本能が剥き出しになる。遠い昔のことではない。父や祖父が遭遇したつい最近の話なのだ。  毎日仕事に出かけ、帰りには一杯飲み屋で安酒をあおり、休日には岸壁で釣り糸を垂れる。見たい映画を見、食べたい料理を食べる、着たい服を着て、行きたい所に旅をする。こんな当たり前のことは弾丸を頭に打ちこまれた少女の散乱した脳みそと引き換えだ。殺さないで、殺させないで、街に住むお偉い人。