T薬剤師

12年間、僕を支えてくれたT薬剤師が家庭の事情で辞めることになった。田舎の小さな町の中でのんびりと仕事をしていた僕を近隣の市町村にまで名前を広めてくれたのは、彼女が作って町外にまいてくれたチラシだった。近隣の町から多くの難しい患者さんが来るようになって、僕の漢方知識は深くなった。期待に添えるように懸命に勉強した年月でもあった。又こうして県外の方とも縁が持てるようになったのも彼女のお蔭だ。パソコンなど全くさわっやこともないおばさん薬剤師が懸命に勉強してくれて独学でホームページを作ってくれた。  病院の薬も彼女がほとんど作ってくれていたので、彼女がいなくなるととたんに僕の薬局は停止してしまう。しかたがないから、まだ修業中の娘を呼び戻すことにした。せめてもう半年他人の釜の飯を食って欲しかったが仕方ない。卒業してすぐに帰ってきた僕よりは少し目も肥えたかもしれない。辞めることを今日会社に言ったかどうかだから、果たして7月いっぱいなのか8月にもつれこむのか分からない。  娘が帰ったら、過敏性腸症候群のことをたずねてくれたらいい。今までは日本海側にある町の病院の目の前に位置する薬局に勤めて結構しんどそうだったから、出来るだけ僕の仕事で振りまわさないことを心がけていた。でも、帰ってくればそんなに身体を酷使するような薬局ではないから、余裕も出来るだろう。それなら何人かの方のおあいても出来る。実際に患い、懸命に克服した体験は多くの同病の方に生きると思う。  優秀な薬剤師が去り、未熟な娘が帰って来る。この先どのような展開が待っているのか分からない。只言えることは薬剤師として善意であれということだ。それさえ忘れなければなんとかなる。