ある年配のセールスに、「下の娘です」と紹介したら、彼は、「いい娘さん達を持って幸せですね」と感慨深げに言ってくれた。その日の午前、娘が彼に挨拶を兼ねて、全任地の土産を渡していたので、一度に二人の娘が薬局に帰ってきたのだと信じ込んだのだろう。余りの驚きの表情に悪くなってすぐに否定したが、それでもなお彼は信じていたみたいだった。  今日明日と、ある薬科大学の4年生が、僕の薬局に漢方薬の勉強に来る。同じ市内の出身だが、偶然娘が卒業した大学で、これまた偶然、娘の同級生が、大学院に残っているのだが、その人と知り合いだと言う。娘に、同級生からよろしく頼むと連絡があったらしい。そんな経緯もあり、朝早く出勤(?)してきたときから、まるで違和感のない子だった。親がうまく育てたとすぐさま感じ取られる、謙虚で、品があり、知性も隠されている感じだった。冗談で「娘です」と言ってみたくなるような素敵な女性だった。今日は、腋臭の薬をまず作ってもらい、その後はひたすら漢方薬を作ってもらった。おそらく彼女の人生で以後、これだけ漢方薬に浸る1日はないと思う。理論は苦手だからえらそうなことは言えないが、人を治すことに生き甲斐を見つけている職人薬剤師を披露できたと思う。  彼女は将来、企業に行きたいそうだ。彼女が大学院に進む理由を尋ねた時、研究テーマを教えてくれたが、僕はサッパリ分からなかった。でも、彼女の目は輝いていた。僕はその道に進むことに多いに賛成だ。彼女の才能を、ただ医者の書いた処方箋にしたがって忠実に調剤するだけのようなものにだけ使って欲しくない。調剤薬局に就職して、朝から晩まで機械の如く薬を作りつづけて何の喜びがあるのだろう。医院の前の薬局の仕事でやりがいを得られるのは、オーナーだけだ。それは経済に直結しているから。患者が元気になろうがなるまいが、医院の前でやっている薬局にとっては関係ない。ただひたすら医院が患者を回してきてくれればいいのだから。  今日は久しぶりに薬局の中がとても明るかった。そして忙しい中にも新しい秩序が出来つつあり、新しい栄町ヤマト薬局のスタートを感じた。邪念のないスタッフといっしょに働ける喜びに浸った。願わくは薬局のスタッフは、品性と、謙虚さと、道徳心と知性を備えて欲しかった。彼女には全部備わっているような気がした。