緊張感

 日本で最大手の調剤薬局を昨日6時で辞めて、娘が帰ってきた。1年半、ひたすら調剤をし、患者さんに薬の説明をしてきた。来年は管理薬剤師になるように期待されていたが、急遽帰って来てもらった。ありがたいことに、随分とひきとめられたらしいが、僕の薬局のある理由の為に帰ってきてもらった。もう多くの方がその理由を知っているがここでは書けない。  娘は早速今朝から僕の薬局の店頭に立った。調剤はプロになっているが、普通の薬局で売っている薬については余り知らない。また、漢方薬についても、よく利用はするが内容はしらない。3週間近く僕を助けてくれた九州から来た助っ人女性薬剤師と引継ぎを行っていたが、さすが若いもの同士理解はすこぶる早い。パソコン世代の理解の早さに驚く。調剤について僕の入り込む余地などまったくない。如何に僕や、辞めた薬剤師の世代が調剤について未熟かよく分かった。心意気の薄さも含めて恥ずかしいくらいだ。娘を修業に出した意義がとても大きかったと思った。技術だけでなく、本来持っている優しい心で、今日もすぐに来店者に喜ばれていた。薬局がとても明るくなったねと言われた。作り笑いでなく、心からの笑顔がとてもいいといわれた。娘が応対しているのを見て、僕は3年で知識を娘に伝え、退こうと思った。僕が頑張ればがんばるほど、彼女は伸びない。信頼して任せることこそが、彼女を伸ばす道だと分かっている。  高校2年生の時、過敏性腸症候群で、突然学校を休むと言って帰ってきた。良くぞ克服して薬剤師になったと思う。自分が苦しんだ分、人に親切に出来る人間になった。裏と表がない人間になった。今日から新しい出発だ。最良のスタッフで不本意な状態に陥っている人のお世話が出来る。最新の技術と、最良の心が伴ってこそお役に立たれることがある。娘には、早速いっぱい質問された。風邪のなおし方、胃のなおし方、痔のなおし方。その熱心さには正直驚いた。その熱意こそが患者さんを救える。それがない人が薬剤師であれる訳がない。  娘が帰って嬉しいと言う感慨はない。中学を卒業してからずっと出ていたので、いないことのほうが慣れている。しかし、薬局を運営するにあたって、最良のパートナーを得たことだけは確かだ。役に立てること、こんな単純な命題に向かって努力できるパートナーが見つかって嬉しい。喜びよりも緊張感の方が明かに勝っているが。