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 夜のニュースを見ていたら、今日の荒れ模様は、全国的なものだったようだ。各地の様子を伝えていた。この辺りでも昼過ぎに突然風が強くなった。朝方の雨は上がっていたから、日差しがよいなかの突風といった感じだった。台風並と表現していた地域もあったみたいだが、このあたりでもそれを感じさせた。  仕事をしていると、裏で何かが大きな音を立てて飛ばされたのが分かった。急いで戸を開けて外に出、その飛ばされたものをかたづけた。驚いたことに、近所の増築中の屋根の上で、男の人が歩き回っていた。かなり重いものも飛ばされ、大きな音を立てて風が吹いている中で、命綱もつけず、安全ネットも張らず、まるで地面の上を歩いているように、忙しそうに動き回っていた。高所恐怖症の僕としたら、考えられない、とんでもない特技だ。彼にとっては何でもない作業なのだろうが、僕にとってはほとんど神がかりに見える。彼の仕事に比べたら、僕の仕事なんか甘ちょろい。単純に「勝てないなあ」と思った。この負けっぷりは気持がいい。  遠くて顔は見えないが、屋根瓦の上を自由に動く彼の仕事には、色も匂いも温度もある。無機質な2次元の世界では表現できない立体的な営みを感じた。