人脈

 意外や意外。専門家に母の家を診てもらったら「屋根さえ直せば大丈夫ですよ」と言われた。一瞬耳を疑って聞き直したがやはり大丈夫と繰り返されただけだ。 母が半年前まで住んでいた家は、いったいいつ建てられたのだろう。昭和か大正か明治か、さすがに江戸ではないと思うのだが、かなり古い。僕の祖父から住んでいることは確かだから、それも明治の人だから・・・分からない。  放射能から逃げてきた東日本の方に住んでもらえたらと思いいざ提案してみたのだが、地震で壊れたりしたら仇になって何をしているのか分からないから、専門家の人に診てもらった。それも今日偶然僕の家のことで訪ねてきた人に診てもらった。話をいったん意識的に脱線させると、この一年僕は心地よい人間関係を作れている。例えば友人とかという類ではなく、仕事の、それも他分野の仕事のプロだ。僕が知り合うと言うくらいだからその道で名をなしているような人ではない。肩書きも見せて貰うほどのものでもないし、向こうもそもそも見せない。10年くらい前から妙に気が合う井戸掘り屋さんとの縁で彼が紹介してくれた内装屋さんの腕と良心に幾度もなく助けられているのだ。若いのにもったいない精神が旺盛で、無駄な出費を全くさせない。多くのお金をかけて不満が噴出するのがその手の商売とまかり通っているところもあるのに、彼の場合はその逆だ。倹約を勧められ、でも結果には満足できる。ふと彼が今日連れてきた人が偶然にも大工さん?屋根屋さん?これ又名刺ももらっていないから肩書きを知らない。でもその道のプロらしく、内装屋の彼がすぐに現場を見ますと言って、3人で母の家を見に行った。ここで脱線終わり。良心的なプロは存在し、その水準で人脈が完成していることもあり得るってことを言いたかっただけだ。 大工さんは、家をさっと診ただけで、しっかりしていると言った。にわかには信じられない僕が何故という顔をしていたのだろう、具体的に部屋を回りながら説明してくれた。昔の誰の意図か、結構柱が効果的に使われていて地震にもかなり耐えられそうだと言う。もっとも屋根は「本瓦」と言うものらしく重いから、吹き替えないと駄目らしいが、彼も又スレートかなんとか、安いものを紹介してくれた。家を本来は倒すつもりだった僕の意図を十分くんでくれてのことだ。  この際もう一度話を脱線させてみようか。この1ヶ月の間全くの偶然だろうが、僕に漢方の相談に来た人の中で数人(地元の人ではない。地元の人はそんな経済の余裕はないから)、以前とんでもない高額なものを飲まされていた人がいる。敢えて「もの」と言ったのは、漢方薬でもない、勿論現代薬でもない、僕に言わせればものでしかないのだ。販売した薬局に悪意があるとは思いたくないが、ほとんど信仰に近いものがなければ販売できないような代物だ。熱心さのあまり薬局自身が催眠療法にかかりそれを患者さんに推奨しているのではないかと思わせるようなものだ。「とても親切」らしいから、とても親切らしくない僕が何か言うと嫉妬のように聞こえるかもしれないが、そんな「もの」を何かのおかげのように販売できる能力を、本当の勉強に割いたらどうかと思う。僕は皆さんに説明する時必ず守っていることがある。それは相手が医者でも同じことを言えるってことだ。素人を煙に巻いて何かを販売するようなことは決してしない。必要なものだけ出すって簡単な鉄則だ。これは田舎で末永くどんな仕事でも続けるためには最低限必要なことなのだ。田舎の純情に甘えて悪意で生活の糧は稼ぎたくない。 善良そうな職人達の連鎖に、我が業界のことを思い羨ましいと思った。