疑問

 立場上控えめな表現を使うが、心の中では憤懣やるかたないのかもしれない。それがまかり通ったら、漢方薬に未来はない、いや一部のものでしかないだろう。その一部のものとは政治の世界で言うと、金に群がる痔見ん党と一部の経済的によい時代を過ごして逃げ切れる世代の人たちだ。
 彼は全国の薬局を仕事で回っているから、素朴な疑問を最近持っているらしい。一体その値段設定でいいのかと。だから突然僕に聞きにくいだろう内容をストレートにぶつけてきたのだと思う。僕はそのストレートを受け入れて答えた。400円くらいだと。彼はそうでしょうみたいに納得していた。彼は漢方薬を薬局に降ろす立場だが、取引先の薬局が患者さんに販売する煎じ薬の値段に抵抗があるみたいだ。どうやら僕の示した額は、大阪の半額、東京にいたっては4割くらいの値段らしい。勿論同じ業者が降ろしている材料だから、東京でも大阪でも牛窓でも同じ値段だ値段だ。と言うことは取っている利益が圧倒的に違う。僕は彼を気遣って、牛窓は土地も安いし、薬局も自分の建物だし、スタッフ全員家族だしと、圧倒的に値段が安い理由を並べた。ところが彼がそんな慰めで納得するはずがない。ベテランのセールスだから全てを知っている。まあ、そんな着地点では彼を納得させれないから本心を付け加えたが、それには彼は同意してくれた。僕の薬局の担当になってから、田舎にこもっている僕に全国各地の情報を教えてくれるが、少しは僕の薬局を評価してくれていて力になろうとしてくれていることを感じる。気が合いそうと謙遜して言ってくれるが、気より考え方は似ている所があるかもしれない。僕が400円くらいの値段設定にしている理由に彼は賛同してくれたから。
 僕がその値段にこだわるのは、僕を育ててくれた漢方の勉強会にいた先輩が、講師の先生は実力が日本一でも値段はすこぶる安いから、それを見習えと助言してくれたのだ。そしてその助言を忠実に守ったことに加えて僕の生き方も影響している。僕はとにかく人の上に人がいたり、人の下に人がいたりするのは嫌いなのだ。だから漢方薬も金持ちしか飲めないなんてのは許せないのだ。赤字でもと言うくらい経済力はないが、ある程度何かを我慢すれば飲める(買える)値段にしたいのだ。そうしないと公平さは保つことはできない。誰かが飲めて誰かが飲めないなんてのはいやだ。前者の理由は、言った方が若くして亡くなったのでいつまでも縛られる必要はないかもしれないが、後者の理由は僕が青春時代からこだわり続けてきたことだから変わらない。
 別に一点の曇りもなく生きてきたわけではないが、いやむしろ曇りっぱなしで生きてきたが、せめてよそ様の高級な、いや高額な漢方薬を飲めずに諦めかけていた人たちに、同じ薬を飲んでいただけるようにはしたい。だって、すこぶる簡単なことだから。そして、こんなことで時折お役に立てれたときの感動をいただけるのなら止められない。