漁師

 牛窓は瀬戸内に面した半農半漁の町で、第1次産業に従事する人が多い。ただ、どこの町でもそうかもしれないが、後継者不足は深刻だ。収入が安定していれば少しくらいきつい仕事内容は解決できる。一番は、やはり自然相手の仕事で、自分の努力を越えた自然現象によって実入りが左右されることに、二の足を踏む人が多い。  今日ササヘルスをとりに来た漁師も実はその問題を抱えている。瀬戸内海は牡蠣の養殖も盛んだが、海苔の栽培も盛んだ。海苔の栽培はきれいな海では栄養がないので難しい。瀬戸内海のように汚染された海のほうが栄養が多くて、海苔の栽培には適している。素人の僕らにとっては逆のように思えるのだが、実は上流の川から排泄されたごみを多く含んだほうが海苔の栄養にはなる。このところの環境破壊の防止キャンペーンのお蔭で瀬戸内海もきれいになった。そのとばっちりを海苔の養殖業者が受けたのだ。以前は収入が多くて、漁師である栽培業者が、魚を摂る漁師を馬鹿にしていた。実入りの多さが謙遜な心を忘れさせたのだ。このところの不作でほとんどの業者は借金を抱えていると思う。陸の農業と同じで売れば売るほど赤字になることも珍しくない。息子が二人いるそうだが、二人とも後を継ぐとはいわないし、親もそんなこと期待してもいない。サラりーマンで毎月賃金をもらっていることの安心感をとても評価していた。きっとかなり近い将来、いやもう数年後だろう。日本の漁師や百姓がどっと死んでいなくなる。今その産業を支えているのは70歳代以上が中心だから。いずれ自然に去っていく。その暁には畑が山に帰るように、海藻が生い茂る海底も山に帰っていくだろう。  職業的な特性か、ホラ話が好きな漁師たちも最近は言葉を選ぶようになった。もはや、誰も守ってはくれないことを悟ったのだろう。