宝の持ち腐れ

 血圧の薬をいくら調節してもらっても、ますます調子が悪くなり、ふらふらして気持ちが悪いと診察を受けに来たらしい。血圧を下げる薬は内科にとって日常茶飯事の処方だろうが、下げなければならない、下げると調子が余計悪いとなると、息子も困ったのだろう、ある煎じ薬を処方してきた。
 その処方は、息子が田舎のクリニックに帰ってきた時に「困ったらこの処方を使うといいよ」と教えていたものだ。自律神経を整えながら気持ちをルンルンにする煎じ薬で、薬局では2種類の粉薬を併用しなければその処方に近づけないから、煎じ薬には勝てない。医師は処方できる内容だから、僕のノートにあるだけでは宝の持ち腐れだから教えておいた。
 40代男性は20日飲んだだけなのに、飲むのが待ちきれないくらい美味しいそうだ。気分は最初の2週間でルンルンになり体調も全く元気なころに戻ったらしい。
 今日処方箋を持って来た時に、事の成り行きを教えてもらったが、ある日、いつものように朝血圧を測っていて最高血圧110 最低血圧98と出たらしい。あまりにも不自然だが、機械の故障と思って放置したらしい。ところがその後気を失って救急車で運ばれ、運よく大事にはならなかったみたいだ。
 当初彼は、漢方薬でその上煎じ薬、これは到底飲めないと思ったらしいが、背に腹は代えられないから飲んだ・・・・と、今日3回目の漢方薬を取りに来た時に教えてくれた。若いのになぜ血圧が高いのか興味があったし、助言できることがあればとも思ったので色々尋ねると、ほとんど自爆テロだった。血圧についてよいことは何もしないのに、悪いことは片手では収まらなかった。
 養生する気はあるのと尋ねると自信がないと答えたから、根っからする気はないと見た。そこでせめて動脈硬化を予防する薬草を加えるように息子に伝えておく約束した。
 薬局では使えない処方も、いつか役に立つこともあるかと、30数年前漢方研究会に入れて頂いた時から書き留めていた。現代医学が最も苦手としている分野を埋めてくれるにはピッタリのものだった。「困ったときの処方」として教えておいたが、患者が困った時か、息子が困った時か、それを伝えるのを忘れていた。困ったもんだ。

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