家系

 数年前からパニックの漢方薬を飲んでいてすこぶる調子がよかったのに、久しぶりに浮かぬ顔をしていた。理由があるはずだから尋ねてみると、アパートの隣人から物音がうるさいとクレームを付けられていたそうだ。
 本来物音を立てていないし、クレームが出てからはかなり気を付けているから、隣からクレームを受ける筋合いはないらしい。ところが隣の住人は被害妄想らしくて、他の入居者が「もう何人も入れ代わっている」と教えてくれたらしい。
 そうなると、解決の方法は逃げるしかない。それを提案すると既に実行に移していて、症状も落ち着きを取り戻しつつあるという。
 パニックみたいな性格は結構遺伝することがあり、お嬢さんもその毛があるらしく、また相談に来るかもしれないと言っていた。娘の苗字は○○ですと、離婚した旦那の姓を教えてくれた。その苗字は、岡山市のある地域に集中していて、実は僕の大学の1級上の先輩がその苗字だった。その人は岐阜薬科を出た後、国立の医学部に合格し、岡山に帰って医者をしていた。ところがまだ僕が若いうちに亡くなったと風の便りに聞いた。頑張りすぎたのだろうか、薬剤師と医師の二刀流をもっと生かしたかっただろうに。
 先輩の姓と同じだったので彼女に「ひょっとしたら親類に、薬剤師と医者の両方の免許を持っている人はいなかった?」と尋ねるといないと言った。「あの辺りは〇〇と言う姓の家が多いじゃろう?」と尋ねるとやはりそうだった。僕は「そうか、あの人は利口な家系の〇〇さんか?」と言うと彼女は「そうです。うちは馬鹿の家系の〇〇じゃから」と笑顔で言った。
 この笑顔で今回もきっと、パニックとウツウツを克服すると確信を持った。僕の薬局はこんな会話をしながら回復していってもらう。
 処方箋を持ってくる方は病気、僕が漢方薬でお世話している人は単なる不調。僕も二つの顔を使い分けているが、前者で役に立ったことなどほとんどない。

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