自負

 僕の次女、三女が突然やってくるときには、必ずと言っていいほどお願い事がある。ところが今日は何度尋ねても、ただ遊びに来たを繰り返す。それでも信じられないから、3時間ほどの間で思い出したように尋ねてみた。夜の10時過ぎの邑久駅発の電車で見送ったのだが、その時間が近づくにつれ、今から問題ごとを相談されても時間がないと、楽しい会話の底で少しばかり身構えていた。異国の地で、完全には日本語を使いこなすことが出来ないのだから、正式な書類を書いたりするときには必ず僕の存在が役に立つが、珍しく何も相談されることはなかった。  折角来たのだから、そしてこの2人は珍しく「にぎり」が好きだから近くの魚一と言う、鮮魚店がやっているすし屋さんでにぎりを取ってあげた。新鮮そのものだから美味しい。二人もとてもおいしそうに食べてくれた。そしてそれを食べ終わった頃、妻が立派なケーキを持ってきてくれた。僕は二人がやってきたときに丁度ある患者さんの相談に乗っていたので気がつかなかったが、二人のお土産らしい。ハードなアルバイトで稼いだお金でもったいないと思いながら頂いたが、そして申し訳ないが、美味しかった。  僕が美味しいというと、彼女達が今日尋ねてきた理由を教えてくれた。それは一ヶ月早い僕の誕生祝と、父の日の祝いらしい。どちらも今日とはずれているが、当日にはやって来れないから今日来たらしい。それにしても僕の誕生日を知っていてくれたことには驚く。恐らく日本に最初に来ていたときに妻から聞きだしていたのだろうが、覚えていてくれたことに感謝だ。薬剤師としてのつながりは、かなり多くの人と持っていると自負しているが、薬剤師の肩書きを取ったときには、数えるくらいしかないのではないか。薬を介在しなければ、結構寂しい人間ではないのか。  「オトウサン、〇〇〇〇デ ヤッキョクデキマスカ?」と尋ねるから、法律的に僕の薬剤師免許は外国で使えないから無理と答えると、「〇〇〇〇ジンノヤクザイシサガス」と言った。なるほど、それは可能だろう。現地の薬剤師を雇い、僕が指示すれば漢方薬局を開くことは出来る。こんなことをけなげに考えてくれる次女、三女を見ながら、この国も、あの国も、争いのない、悪意のない国であり続けて欲しいと思った。