人体実験

 「ゲージに入れている犬を連れて入ってもいいですか?」と尋ねられたことで二つのことが簡単に分かる。ひとつは薬局に犬を連れて入ってもいいかと許可をもらう良識。もう一つは犬を愛する気持ちの深いこと。気温が上がって、車に残しておけば熱中症になるかもしれないと心配のあまり許可を願い出たらしい。即座に女性の人柄にうたれた僕は「放し飼いにしてくれてもいいですよ」と答えた。  煎じ薬を取りに来た女性が面白い話をしてくれた。彼女が飲んでる煎じ薬はとても香りがよく、そのまま捨てるにはもったいないと最初から言っていた。確かに作っているときからいい香りがする処方で、僕も美味しいだろうなと思っていた。 彼女はもう一匹、老いた大型犬を飼っているらしい。大型犬だからとてもウンチガ臭くて、庭が臭うらしい。そこで彼女は煎じた後のかすを庭に撒いたらしい。すると彼女の考えたとおり、ウンチの臭いがずいぶんと減ったらしい。畑にまいて肥やしにする人はままあるが、消臭のために使った人は初めてだ。  するとその撒いた漢方薬のかすを、大型犬がおいしそうに食べたそうだ。これも初耳だが、確かに薬草だし、いい香りがするから犬が好んで食べても不思議ではない。その上出がらしといえども、食べて健康になったら儲けものだ。犬が食べても胃腸が強くなり、免疫が上がり、菌やウイルスに強くなるはずだ。全く自然の薬草のみで作っているから、動物が自然に受け入れてくれたのだと思うが、願ってもない人体実験だ。いや犬体実験だ。  日常のたわいない出来事の中に、耳を澄ませば真実の声が聞こえる。