陰膳

 さすがに85歳を回ってから、果樹園を守することは出来なくなったみたいで、大方の木を切ってしまったと寂し気に教えてくれた。お嬢さんが二人おられるが、どちらも都会に出ているから、手伝ってもらうこともできない。僕が幼い時から知っている人で、親類づきあいみたいに僕の両親と親しかった。当然東京と大阪に出ているお嬢さんも良く知っている。逆にその二人が幼い時から僕はよく知っている。代々と言う言葉が適するような関係のお家だ。
 その男性が話の途中で耳慣れない単語を使った。2度ほどはほぼ聞き取れなかったが、3回目に口に出したときにやっと想像がついた。発音と話の前後から「陰膳」だとイメージできた。字も想像できたし意味も想像できた。長女の方が今日が誕生日で、彼女のために陰膳をしてあげたらしい。僕の勝手なイメージでは陰膳は亡くなった方のためにするものだと思っていたのだが、なんとなく良いイメージのような気がした。と言うのはさっきまで寂しそうだったのに、この話題になって一気に明るくなったからだ。その後の彼の言葉で陰膳の本当の意味が分かった。
 「畑は無理じゃけど、遠いのにわざわざ帰ってくれたり、物を送ってくれたりで、有難いことですら」
 ひょっとしたら陰膳とは亡くなった方の為ではなく「陰ながらお祈りいたします」の世界ではないかと思ったのだ。
 確信がないから、帰られた後インターネットで調べたら、やはり遠くから幸せを祈る時にもするらしい。
 最近やたらこの歳になって初耳みたいな言葉に良くぶつかるが、それだけよくお喋りをしていると言うことだろう。
 もう何年もこの仕事は出来ないだろうから、できるだけ多くの方の役に立っておこうと積極的にかかわっているが、こちらが知識や元気や笑顔を貰うことも多い。同じ時代を生きた見えない連帯感に感謝したい。

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