兄弟

 関西から牛窓に30年前に移り住んだ老夫婦が、弟さんが医大の教授だと、妻が薬を届ける度に話題にするらしい。とくに奥さんの方がことあるごとに口に出すみたいだ。
 高齢になって、免許証も返納したから、山の上の家に妻が配達しているのだが、毎度毎度の話題にかなり閉口している。弟さんと言ってもご主人の弟らしいが、ご主人の口からその話題は出たことがないらしい。
 偶然僕の息子がその教授に教えてもらっていたらしいから、暗黙のうちに何か特別な配慮を要求しているのかもしれないが、僕が青年期から価値観の最上級に置いている平等から外れてしまうので、何ら配慮はしていない。しかし、配達の度に同じ「恩着せがましさ」をみせられる妻は相当ストレスみたいだ。そのストレスが僕にも若干伝播して、まだ見ぬ教授にも好感は持てなかった。
 先日、ご主人がある男性に車で連れられて薬を取りに来た。80を十分過ぎている男性の弟だから、80歳を回ったあたりの年齢のように見えた。「「弟です」と紹介された男性は、とても柔和な物腰で、それでもいかにも知性がにじみ出ていた。そして「いつも兄がお世話になっています」と言って、僕とお兄さんとのやり取りを後方で聞いていた。
 そして薬の説明や受け渡しが終わると「これからも兄をよろしくお願いします」と頭を下げて出て行った。この二人が僕の薬局人生で、兄弟連れだって来局した二組目だと思うが、短時間で、今までのマイナスのイメージを払拭してくれた。
 恐らく現役時代には、かなりの権力を有していたに違いない。実るほど首を垂れる人もおられるが、そういった人のほうが圧倒的に少ない。本人ではない人から、勝手に植え付けられた拒絶感で、お礼の一言も言えないところだった。当然僕は心から「息子がお世話になりました」と頭を下げれたが。

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