相場師

 上には上がいるものだ。今日はあるおばあさんのことを書こうと思っていた。89歳で、免許の更新をするついでに隣町からやってきて寄ってくださった方だ。おうちの隣が薬局らしいが、なぜか30年近く僕の薬局を利用してくれている。ある薬を根気強く飲まれているおかげか、元気そのものだ。今でも20分くらい車を運転して買い物に来る。牛窓警察署が免許の更新の場らしいが、3年後の更新についてもう心配している。目が見えにくくなっていたらどうしようと言うのだが、それ以外を心配しないところがすごい。もっと心配するところがあるだろうに、目のことしか心配しなかった。3年後と言えば92歳だ。御主人がなくなって30年、息子さんが亡くなって数年、いつも緊張して暮らす環境の人は、モチベーションを高いところで維持できるのか、若くてしっかりしている。  ところが、ところがだ。上には上がいる。  息子がある方の漢方薬の調剤を依頼してきた。「明日の午前中着くように送ってあげて、仕事に行くらしいから」と言いながら仕事と言う言葉のところでくすっと笑い声を漏らした。理由は92歳のおばあさんが仕事に行くと言ったからだと思う。それは今日の午前中の話だったのだが、夕方になって荷物を発送したかどうかを改めて尋ねてきた。まだクロネコの集荷がないと答えると、明日は10時に出かけるから、10時までに届けてあげてと言うことだった。クロネコの午前の配達は、時間単位で区切られていないので、こうなれば配達してあげるしかない。岡山市でも、牛窓の隣の地区だったので妻が配達してあげた。そして配達から帰った妻が興奮気味に教えてくれた。漢方薬を届けた女性は92歳なのだが、70歳代後半にしか見えなかったと言う。そしてその女性が10時に出かけるというのは、あるものの買い付けに津山まで自分で車を運転して行かなければならないかららしい。津山まではそこからでも2時間以上かかると思う。それを1人で運転して往復すると言うのだ。あるものの買い付をし、値段の交渉をし、それをトラックで配達してもらい県南の商店におろすというのだ。現役バリバリの相場師だ。  北海道で一家4人を殺したばか者達がいる。これから何十年刑務所に入り、何億の賠償を強いられるのか知らないが、若者の方が老婆達より醜くてどうするんだと思うが、これが美しい日本の現実だ。誰の都合でそんな醜い言葉を唱えなければならないのだ。