感謝

 「こんな音があるとは分からなかった」と娘が言ったが、実は僕も同じような印象を持ちながら聞いていた。2万円がもったいないと思いながら、こんなに違うものかと認識を新たにしながら、結局は諦めた。  クロネコヤマトは毎日2度寄ってくれる。朝一は薬をメーカから運んでくれ、午後4時半は、僕が全国に発送する漢方薬を取りに来てくれる。今日の朝一は薬に混じってポータブルステレオらしきものが届いた。小さくて軽い。恐らく今使っているラジカセが、それは数年前に娘婿にもらったものだが、CDを聴く機能だけ残して後は総崩れ状態になっているから、若夫婦が買い換えたのだと思う。もともとは彼らのものだから僕が口を出すことは出来ないが、正直使えるものを捨てることが出来ない僕としたら「もったいない」とすぐに思った。だけど、どんなことも基本的には口をはさまないことにしているから、今回も傍観していた。  所詮、意にそぐわない出来事だから頭の中からすぐにその出来事は消えていた。ところが仕事をしながらいつも聴いている曲なのにずいぶんと迫力があることに気がついた。小さなステレオなのに低音が空気を揺らしているのだ。柄に似合わず結構低音がお腹に響く。同じことを娘も感じたのだろう。だから冒頭のような言葉を口にしたのだ。  パナソニックの箱に入って送られてきていたが、結構2万円で音って変わるんだと驚いた。たった2万円でステレオが手に入る時代も驚きの対象だったが、どんどん喜びの価値が下がっているような気がした。たった2万円でこの音が手に入ってはいけないだろう、価値を下げるななどと逆説的なことが頭に浮かぶ。  円安のせいで、外国人観光客が大挙して押し寄せ、がま口のような顔をして闊歩する。僕はあの光景が嫌いだ。接待するこの国の人たちがさもしく見える。低脳政治屋はアメリカに媚を売り、商売人は東南アジアの人に媚を売る。2万円の音を聴きながら、人間除染機として来日してくれる外国人に、実は感謝している。