朗報

 「オススラミン?オトスラミン錠?オトシガミン錠でございますね?」姪が何度も受話器に向かって確認していたが、ようやく正確に注文を受けれたのか受話器を置いた。そして早速注文のメモを片手に薬を揃えていたが、何度も繰り返していた薬がどうしても見つからないので、僕にメモを見せながら助けを求めた。電話で話しているときから聞き覚えがない薬の名前だから、どうせ僕の薬局では扱いがないだろうと思っていたが、案の定活字を見せられても初耳の名前だった。「そんな薬はないよ」と言うと、姪は「お客さんが、奥さんにいつも持ってきてもらっているから、奥さんに言ってもらえれば分かると言うんです」と経緯を説明した。妻が時々配達してあげている老人だから妻に聞けば分かるだろうと思っているところに娘婿がやってきて「落とし紙ですよ」と助言してくれた。姪の電話が聞こえていたのか、姪が薬が分からずに狼狽していたのを見ていたのか、何か娘と話し合っているなと思っていたら回答をくれた。彼には過去の配達のデータがインプットされていたのか自信を持って落とし紙と断言した。  そこへ妻が2階から降りてきた。妻に尋ねたら同じ答えだった。最終的には自信を持って聞き取った姪の立場がない。ただ姪にみんなが「落とし紙」と言ってもぴんと来なかった。なんとその単語を知らないのだ。ひょっとしたら見たこともないのかも知れない。20歳くらいしか違わないのにこの断絶には驚いた。だから「落とし紙(がみ)3つ」が「オトシガミン錠」になったのだ。  まるで言葉遊びのような結末だったが、大いに笑わせてもらった。最近嬉しくなるような、楽しくなるような、幸せになるような、飛び上がるような朗報に接することが全くない。こうした些細な失敗をネタにお腹が痛くなるほど笑い、その日その日を懸命に生きる。