金塊とは言えないな。金のプレート、それもペンダントにして首にぶら下げるくらいの大きさのもの。しかし、僕は他人の金歯以外初めて金の塊を見たような気がする。
 ショーケースに入れられていたから、本物かどうかわからなかったので店員さんに尋ねてみた。「これ本物ですか?」「これ売り物ですか?」「何円くらいするんですか?」「これを買った人はどこにしまっておくの?怖いでしょう」
 この一連の質問で、店員さんは僕がそれとは縁のない人間だと分かっただろう。ただ店内にはスタッフ4人に対して客が僕だけだったので、向こうも時間つぶしなのだろう、今まで検眼などを担当してくれていた女性に変わって店長らしき一番の年長者が僕の前に腰掛け、おもむろにショーケースから取り出して目の前の並べてくれた。
 黄金色に輝いてはいなかった。ブリキに金色で彩色されても僕には区別はつかない。ただお店がメガネのミキだから偽物ではないだろう。実物より店名でしか判断できない哀れ。
 金の値段が上がっているから、ずいぶん前に買った人はかなり得している。僕みたいな素人に情報が入ってくる頃にはもうほとんど一番高い値段くらいで、これから下がるだろう頃に買わされるのが落ちだ。ただ僕は労働の対価としてしかお金を頂いたことがないから、美味しい話には乗らない・・・と格好つけなくても、相手は全然僕に勧めてこなかった。まさにお互いの時間つぶし。おかげでほんのちょっぴり知識が増えた。「金は言われるほど金色ではない」

 


安倍元首相への追悼と、その仕事への評価は別だ…死を美化してはならない(三枝成彰
 日刊ゲンダイDIGITAL 2022/07/16 06:30
安倍元総理には謹んで哀悼の意を表します。
その上で申し上げたいことがある。彼個人への追悼と政治家としての評価をいっしょくたにした“悲劇の英雄”としての美化が始まった。「モリカケサクラ問題」も解決していないのに忘れられたかのようだ。これはおかしい。
森友学園問題では、昭恵夫人が名誉校長の小学校建設に伴い国有地が鑑定額より8億円も安く売られ“忖度”が取り沙汰された。また国会に提出する文書の改ざんを強要された近畿財務局職員が命を絶っている。
加計学園問題では獣医学部新設の認可に際し「総理のご意向」うんぬんという文書があったとされる。経営者と安倍さんが友人で、優遇が疑われた。獣医学部が日本にわずかしかない理由は、細菌兵器の研究を始める恐れがあるからだという説がある。国が表立ってできないことを、安倍さんは秘密裏に進めようとしたのではないか。
国会での「桜を見る会」の質疑で、安倍さんは118回もの虚偽答弁をしたが不起訴となり、捜査は終結した。
いずれも安倍さんが亡くなり、真相の追及は難しくなった。
彼は政治家としては何も残さなかったと思う。ただ世界にいい顔をし、カネをばらまいただけだ。アベノミクスも何の効果もなかった。
日本には過ちを犯した人が亡くなればすべて「水に流して」なかったことにする“美徳”があるが、それは世界に通用しない。ドイツではナチスの罪に対する猛烈な反省があり、今でもそれを忘れない。
一方の日本は、いまだに110万柱の兵士の遺骨収集をせずにいることからもわかるように、戦争の反省をきちんとしたとは言いがたい状況にある。
参院選自民党過半数を得て、憲法改正と「防衛費をGDPの2%に」との安倍さんの“遺言”も実現しつつある。小国ならともかく1億2500万人の日本の2%は大きい。1%でも約7兆円弱の世界9位。2倍の14兆円なら米の102兆円、中国の37兆円に次ぐ世界3位の軍事大国となる。
政府は中国を仮想敵国と考えているのか? 人口が10倍の大国に勝てるはずがない。かつて「鬼畜米英」を掲げて無謀な戦争に突入した事実を忘れたのか? その忘れっぽさは“美徳”ではなく、ただの恥さらしだ。
私は自衛隊を否定はしないし、敬意を持っている。人気の自衛官のドラマ「テッパチ!」も着眼点はよい。しかし、一途に仕事に取り組む若者を描くことが国のために死ぬことへの美化につながってはいけない。
国に命を捧げるほど愚かなことはない。ウクライナもゼレンスキー大統領が戦争をやめればこれ以上の死者は出ないはずだ。領土の一部をロシアに渡したとしても、国民の命を優先すべきだ。
太平洋戦争でも国の威信を守るために大勢が亡くなった。国民は国のために生きるわけではない。どこの国でも若者たちは夢を追い、恋もしたいだろう。死んでは元も子もない。
少なくとも私は国のために死にたくない。自由に生きられない国はごめんだ。

三枝成彰/作曲家)