恩人

 恩人と言うものは誰にでもいるだろうが、大恩人、唯一無二と呼べる人を持てることはめったにあることではない。僕にはそんな方がいる。そしてその方が亡くなられたと、昨晩奥様から連絡があった。ただただ驚くばかりだった。ただし、尊敬してやまない漢方薬の先生としての、知識に裏付けられた覚悟の亡くなり方を知らされて、安堵したし、亡くなられてからも尊敬の念が増した。
 僕の漢方薬の知識は99.9%その先生から頂いたもの。30歳過ぎてから狭き門の勉強会に加えていただいて、35年間知識を頂き続けた。それまで幾人かの漢方の先生の講演を聞いたが、どなたの話も高尚過ぎて、素人同然の僕には難しすぎて、2回目の参加もままならなかった。1回聞いただけで、「こりゃあ分からん」状態に陥った。漢方医学が哲学に昇華して僕ら凡人には理解不能だった。公式を覚えればあとは簡単と励ましてくれる方もいたが、その公式と言うのにも抵抗があった。
 そんな中偶然僕をある漢方研究会に誘ってくれた方がいて、勉強会に行ってみると、今までとは打って変わって、誰もが分かる普通の言葉で先生が講演された。難解な漢方用語ではなく、現代医学の言葉が多く使われ、とても腑に落ちるものだった。関西人特有のユーモアもふんだんに織り込まれ、超実践的な内容だった。全く漢方の知識がない僕でも、初めての講義を聞いてからすぐにでも牛窓に帰り、試してみたい人が数人いた。陰とか陽とか、正とか邪とか、けむに巻かれる概念論ではなかった。
 それから35年間、先生の年齢に合わせて毎月開催から隔月開催に変更したが、それはそれはたくさんの知識を頂いた。こんな田舎で門前薬局でない昔ながらの薬局をかたくなに守り続けてこれたのは偏に先生のおかげだ。庶民でも飲める金額、無用のものは売りつけない、治れば止めれる、当たり前のようなことも教えていただいたが、それでこそごく普通の経済環境にある方のお世話が出来る。田舎の薬局には絶対必要な原則を共有出来ていたことも幸運だった。都会の先生と田舎の僕が同じような哲原則を持っていたからこそ、1回きりで2度と聞かなかった他の先生方の講演のようにはならなかった。むしろ翌月の講義を指折り待ったくらいだ。
 今日も僕は懸命に働いた。いつものように朝が来て、いつものように栄養剤を補給して頑張った。ふと先生が亡くなられたことが頭をよぎるが悲しくはない。誰もが通る道。大きなことではなく、多くを成し遂げられて逝かれたのだから、悲しむ理由がない。ただただ感謝あるのみだ。仕事の合間にこれからも何度となく思い出し、励まされる。患者さんのお役に立つ、それが頂いた知識への唯一の恩返し。
 最後にありがとうと言えなかった。そんな後悔もない。何百回先生には心からのありがとうございますを言ってきたから。いずれ僕もあちらに行く。その時には母に「ごめん」、先生にはいつものように「ありがとうございます」と言える。行く理由が二つできた。

 


安倍元首相が賛意を示した旧統一教会の「仰天教義」保守系支持者らはなぜダンマリ?
 日刊ゲンダイDIGITAL 2022/07/15 06:30
「私たちの友好団体が主催する行事に安倍元首相がメッセージなどを送られたことはございます。(統一教会教祖の)ハン・ハクチャ総裁が主導されている世界平和運動に対して、賛意を表明してくださっていた」
安倍晋三元首相の銃撃事件を受け、11日に都内で会見を開いた「世界平和統一家庭連合」(旧統一教会)・日本教会会長の田中富広氏。殺人容疑で送検された山上徹也容疑者(41)の母親が教会員だと明らかにした上で、安倍元首相と旧統一教会の間につながりがあったことも認めた。
安倍氏が教祖に「賛意」まで表明していた統一教会の教義とは一体、どういうものなのか。
1978年6月1日の衆院地方行政委員会で、共産党議員が教義である「原理講論」や関連書籍など読み上げている。内容はこうだ。
「韓国語の原本によりますと(略)こういうことが書いてあるのです。有史以来、全世界にわたって発達してきた宗教と科学、即ち、精神文明と物質文明とは韓国を中心として、みな一つの真理のもとに吸収融合され、神が望まれる理想世界のものとして結実しなければならないのである(略)人類の父母となられたイエスが韓国に再臨されることが事実であるならば、その方は間違いなく韓国語を使われるであろうから、韓国語はまさに祖国語となるであろう。したがってすべての民族はこの祖国語を使用せざるをえなくなるであろう。こう言っているのです」
「男性韓国が、真理の国ということができるとすれば、女性日本は産業の国といえるのではなかろうか。深遠な真理をもって語りかけてくる男性に、女性は何をもって返答をするであろうか。婚姻の約束が成った後は、仲人を立て、調度品を将来の夫のもとに納める習いがあるではないか。日本は、二十年間の驚異的な産業の発展を有している。この産業・経済を男性韓国へ結納として収める歴史的必然性がある」
いやはや、どう見ても「曲解」としか思えない教えだが、これでは霊感商法被害者などが続出するのも無理はない。
改めて日本の現職の総理大臣が「賛意」を表明していたことに驚くが、不思議なのは、ふだんは「嫌韓」「反韓」を訴えている保守系から批判の声がほとんど出ていないことだ。仮に、野党議員が今回の安倍氏のように「韓国が世界の中心」みたいな団体に「賛意」を示していたら、たちまち「売国奴」「恥を知れ」などと大騒ぎになっているだろう。
ネット上でも、〈京浜急行線の駅名案内がハングル文字というだけで怒り狂っていた右派の人はなぜ静かなの?〉、〈世界の中心が韓国で、属国扱いの日本は女性もカネも差し出せという宗教法人に賛意を送った安倍さん。韓国嫌いの支持者はどう思っているのだろうか〉といった声が出ており、自民党などの保守系支持者らが声高に叫ぶ「愛国心」の“正体”が問われる事態となっている。