仕事が遅くなり、営業時間内に薬局に行けないから、少しだけ開けて待っていてと電話で頼まれた。若い漁師で、朝の3時ころから海に出ている。毎年忙しくなるこの時期はくたくたで、ある栄養剤を離せない。極度の疲労やインフルエンザなどにかかってもなお休めない人たちに根強いファンが多い代物だ。
開けて待っていると彼が入ってきた。おが（陸）に上がり張り詰めた緊張感から解放されたのだろう、無口な彼がよくしゃべる。その中で「明日（日曜日）何をするん？買い物でも行くん？」と尋ねられたから、「コロナで、どこにも行けん。たまに教会に行くくらい」と答えると、「教会に行って何をするん？」と追い打ちをかけられたから、十字を切る仕草をして「〇〇君の、幸せと健康を祈るんじゃ」と答えると「本当？」と嬉しそうな顔をした。
さすが人間が苦手で海の上の孤独を好む青年らしく純粋だ。これは悪いこと（嘘）をしたと少し反省して「嘘じゃあ！本当は宝くじが当たるように、汚部が刑務所に入れられるように祈っている」答えた。やはりこちらの方が腑に落ちたらしく、「やっぱりなあ」と笑っていた。
３０歳が近い彼の母親が牛窓に嫁に来てから、ずっと家族の世話をしているから、それこそ生まれた時から知っている。新米の母親がよくぞ育てたと思う。田舎だから突出して優秀な子はほとんどいなくて、どこにでもいるような子ばかりだが、逆にドロップアウトして取り返しがつかないような子も少ない。のんびりと育ち、のんびりと社会に出る。植えこまれなくて済んだ無用の呪縛を免れて、これからも末永く笑顔が自然に零れる人生であって欲しいと願う。十字架を切らなくても、教会に行かなくてもそう願う。信者の前に、僕は薬剤師だし、田舎の人間だから。
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