腹筋

 再来週の日曜日に引き受けた、花嫁の父親役に付いて全く知識がなかったので、ベトナム人に聞いてみた。バージンロードを歩いて行ったあと何をしたらいいのか分からないし、それよりもバージンロードをどうやって歩くのかも知らない。結婚式などもう10年以上出ていないし、そもそもすべての儀式が嫌いだから、現場で当日何も見ていない。日本の式の知識もないのだから、ベトナムの儀式など分かるはずもない。
 そのことを伝えると、5人くらいその場にいた女性たちががぜん張り切って僕に教えてくれ始めた。既婚者もいるし独身者もいるのだが、なぜか全員がよく知っている風だった。花嫁の腕を取って歩く練習の時に大げさな態度で緊張したふりをして「右足を出して、また右足を出して、そのあとまた右足を出して、ということは左足は右足についていくだけのように、緊張してわけのわからなくなった姿を演じたら、これがめちゃくちゃ受けて、笑いながら倒れて横になる子が続出した。僕としては単なる吉本新喜劇だったのだが、あちらにはそのようなギャグはないみたいで大うけだった。恐らく5分くらい笑い続けたと思う。その笑い転げる姿を見て僕も腹筋が痛くなるほど笑えた。
 みんなに断られた大役?を引き受けたばかりに、5人くらいの女性が笑い転げることができた。コロナで仕事が減り、国に送金できるお金が減り、「寂しい 寂しい」と僕に訴えていた女性たちが、短い時間でもそのうつうつとした心模様から解放された。何も無駄なことはない。快く人様のお役に立てれるよう努めれば、小さな幸せが伝搬していく。むつかしいことではあるが「よく生きる」ことを心がけたいものだ。