渾身の一言

 なぜかこの数年、ベトナム人たちが僕の誕生日を祝ってくれる。家族は何もしないのだけれど、祝い好きの彼女たちは飾りつけから何から結構盛大にやってくれる。嬉しいけれど、嬉しくない。基本的には僕はあらゆる「儀式」が嫌いだ。
 さすがに僕が手を伸ばさないから、最近は料理は作らない。その代わりふんだんに果物を盛ってくれ、昨夜は手作りのケーキも並べてくれた。それは美味しくて、それなりに整っていたから、スイーツに関しては国境を簡単に超えられる。ただし、昨夜どうしてもその国境を越えられないものがあった。それはある女性が僕に頼みごとをしたことに始まった。
 コロナのせいで、牛窓から出ることを会社から禁じられているから、哀れに思って釣り道具を8人分買ってあげたのだが、それを貸してくれと言う。僕が参加せずに釣りに行ったことはないからどうしたのかと思ったら、カエルを釣りたいそうだ。「カエルを釣る?」当然僕は聞き返す。そうなのだ、まさにカエルを釣って食べたいのだそうだ。当然ここで僕の驚き。「カエルを食べる?」
 20人くらいが全員そろっていたから興味本位で確かめてみると、一人以外はカエルを食べた経験があり口をそろえて美味しいと言った。そしてご丁寧に料理の仕方をユーチューブで見せてくれた。もちろん食卓に上った姿も。
 ところがそれで話は終わらなかった。ユーチューブの続きでネズミ料理の仕方を見せてくれた。ここでもまた「ネズミを食べるの?」そしてほとんどのベトナム人が「おいしい!」
 ネズミの皮をはがすところや、燻製みたいにして干しているところを見せてくれた。日本人ととても良く似た顔をして、明るくてかわいい女性たちが「ネズミ 美味しい カエル おいしい」
 僕の渾身の一言。「ベトナムなんかには絶対行かない!」