食費

 もう日が暮れて暗くなっているのに、妻は水が入ったバケツを車に積んで出かけた。その水は海水で2匹の小さな魚が泳いでいる。その魚をもって行って食べさせてあげたい猫たちがいるのだ。牛窓でも古い街並みの本町あたりには、多くの野良猫がいる。堤防に腰掛ければ格好の釣り場になるから、釣り人が多く集まる場所であり、おこぼれを狙って野良猫が多く集まるところだ。
 配達でよく町内をうろうろする妻は、僕などよりよほど牛窓に詳しくなり、そこらあたりに出没する野良猫の不健康ぶりが気になっていた。配達から帰ってよく話を聞かされる。確かに飼い猫ではありえないような状況を聞くことが多い。そんな野良猫に美味しい魚を食べさせてやりたいのが妻の望みで、先週は一緒に釣りに行った。同行したベトナム人も含めて誰も釣ることができなかったが、今日は3匹も釣れた。歓喜の声が上がったくらいだ。1匹は残念ながら河豚だったから、怖くてすぐ放してやったが、あとの2匹はまさに猫用かと言うくらい小さくて、餌にはうってつけだった。ベトナムでも釣りをしていたという二人がそれぞれ釣り上げた魚だ。その2匹が大きくなかったのがよかったのかもしれない。大きかったら当然人間の口にはいっているから。
 帰ってきた妻はビデオで撮った猫たちの様子を見せてくれたが、「嬉しそうな顔をして・・・」と言う表現をにわかには信じられないが「いいことをした」くらいの満足感はあった。
 わずか餌代の500円で、ベトナム人7人、僕、妻、猫たちが喜べるのだから、いかに平生、「なくてもよいもの」にお金を使っているかよくわかる。ほとんど食費のみで過ごせば、今この国でいくらくらいのお金で過ごすことができるのだろう。