変化

 半世紀も経てば、われは海の子が、われは陸の子に釣りの仕方を教えられる。それも女性に。釣り一つとっても、変化には半世紀の時間は要するのか。でもとてもいい変化だ。彼女は笑顔が絶えないし、釣りをしている時が幸せと言い切る顔が生き生きとしている。心療内科の薬を飲んでいるが、もっと早く僕の息子や僕に会っていたら、あんな薬は必要なかっただろうに。
 処方箋を持ってきた機会を僕は見逃さない。先日、2日間、延べ14人で、小さな魚が3匹しか釣れなかったことを告げると、さっそく新たな情報をくれた。それも思いもよらなかった情報で、何とイカがよく釣れるのだそうだ。牛窓イカ?それも「どこででも釣れますよ!」こんなうれしい情報はない。でもどうやってイカを釣るのか分からなかった。すると彼女は車に戻るとトランクを開けて小さなケースを持って帰ってきた。その中にはイカ釣り用のおもちゃのエビが10数個入っていた。まるで食べ物屋さんのウインドウに飾ってある食べ物を模した模型の様だった。それの先端に針がついていて、本物のエビと間違って食べようとしたイカに刺さるらしい。水面下何センチくらいにそれを泳がすと釣れる。海底にそのまま下ろすとタコが釣れると、とても詳しく教えてくれて、その上にその疑似餌を5個くれた。ちょうど薬局に来る前に釣具屋さんに寄って新しいのを買ってきたところだったらしい。ケースに収まりきらなくてどうしようかと思っていたところらしい。
 なんていう偶然、なんていう幸運、小難しい薬の話などめったにしない雑談薬局の本領発揮。患者さんに多くをもらう珍しい薬局。僕も患者さんも楽しい薬局。薬局一つとっても、変化には半世紀の時間は要するのか。