中銀

 考えてみれば前回、中銀(中国銀行)に入ったのは半世紀以上前のことだ。僕が生まれ育った薬局から歩いて数分のところにあるレンガ造りの建物だった。当時の牛窓の繁華街で、今でいうと車一台が通れるような狭い道だったが、まさに一番にぎわっていたあたりだ。
 そして今回入った中銀は、そこら西に延びていった、新しい牛窓の街並みのある。目の前にはボートの係留所が広がる、明るい太陽をいっぱい浴びる鉄筋コンクリートの建物だ。
 ただし、店舗に入るまでの僕の頭には50年前の記憶しかなく、映画のロケのために昭和を模倣して作ったような張りぼてそのものだ。
 ところがと言うか、当然と言うか、50年ぶりに見た姿は、多くの客がいて、それらをさばく行員も多く、とても洗練された応対がなされていた。まるで牛窓ではないかのように垢抜けていた。まさかと思ったが、番号札を渡されるなど、進みすぎた機械化も体験させてもらった。
 行員たちにとっては見ず知らずの人間でも、通帳の名前で僕の素性は分かってもらえたと思う。それでも、ルールはルールらしく、本人でないと駄目と言う書類をもらうために、かなり多くの字を書いた。
 場所が変わり、建物が変わり、人が変わり、システムが変わった銀行の中で、僕は半世紀タイムスリップをしたわけだ。その感慨とは裏腹に、僕は時代の変化にゆっくりとついてきたんだなと思った。多くの変化を信頼とか同情とか哀れみとか友情とか、機械化できないもので補い、生きてきた。時代を先取りすることもなく、先頭を走ることもなく、時代の変化には最後尾辺りをゆっくりと歩いてきた。それで失ったものは恐らく少なく、逆に失わずに済んだものは多いのではないかと思う。

 

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