こんなところで脱皮するんだと、珍しい光景に少しの時間足を止めた。
中学校のテニスコートは四方を高さ4メートルくらいのネットで囲まれている。いつものように不法侵入してウォーキングを始めたのだが、ネットに何かひっかっかっているのに目が行った。1,2、3,4,5個あった。ある支柱からある支柱までの狭い範囲に集中していた。そばには高い木があって、クマゼミの鳴き声がけたたましい。
最初は単なるゴミに見えたものは、近寄ってみるとセミの抜け殻だった。起用にネットに引っかかっている。木の幹でしか見たことがないからなんとなく異様に見えた。自然の営みがまるで造形芸術のように見えたのだ。だが確かに抜け殻で、漢方をやっている人間にとっては、かゆみ止めが網にひかかっているように見える。
(この件は少し説明がいるかな。セミの抜け殻はかゆみ止めとして漢方薬ではよく使う)
成人して、もういくばくかの命しかない彼らを思いながら、自然の儚さに思いを馳せる。肉体もなく魂もなく、それでも必死でしがみついている姿は抜け殻と呼ぶには怒気迫るものがあった。