収穫

 処方箋の薬を取りに来た女性が、透明のプラスチック容器にきれいに並べた果物をくれた。パチンコ玉くらいの赤い実に長い蔕がついている。これは高級品だ。ところが名前が出てこない。あまり食べたことはないが、過去山形産で有名だというのでいただいたことがある。ところが果物の名前が出てこない。そこで持って来てくれた方に「こんな高級品をありがとう。ところでこの果物の名前何だったっけ?」と尋ねると、持ってきてくれた人も名前が出なかった。ところがもう一つ驚いたのは「高級品ではないですよ、うちの庭で採れたものですから」と言う。何!この高級品が牛窓で採れた?合点がいかなかった。先入観で北国の特産だと思っていた。「これが牛窓で採れるの?」と尋ねると「普通の桜より早く咲いて、そのあと実がなるんですよ」と教えてくれた。「さくら、そうサクランボじゃが」と僕が先手を取ると女性も思い出してお互いに笑った。笑ったと言っても失笑に近かったかな。
 女性が帰ってからいただいてみると、ほんの少々酸味があるいが、甘味で十分カバーされてとても美味しかった。山形のサクランボの味を忘れたから比較はできないが、これはこれで十分美味しかった。山形のですと言われても僕にはわからない。ありがたがっていただいていただろう。なにわともあれ、サクランボが牛窓でも採れるってことがわかっただけでも、「収穫」だ。