人口密度

「どこに住んでいるんだ!」と言いたいところだが、どこに住んでいるかはよく知っている。小高い山の上で10軒くらいで小さな集落を作っている。
急な坂道を少し車で上がるだけだから決して不便なところではないが、いわゆる町中ではない。そもそも町中だったとしても、しょせん人口数千人の田
舎町だから、人口密度などめっぽう低い。ひょっとしたら一人当たり50メートル四方くらいでないか。その上、山あり海ありで自然の中で暮らしてい
るようなものだ。
 それなのに今日、彼から出た言葉が「コロナが流行っているから、外にはあまり出たくない」だった。真っ赤な顔をして漢方相談にやってきたから、
漢方薬を作ったあと、少しウォーキングを始めるように指導した。彼が返した言葉がコロナだったのだが、決して彼はウォーキングをしない言い訳で言
ったのではない。根っからコロナを恐れているのだ。彼は嘘をつくような人間ではない。
 薬がないのだから、疲労をためないことしかできることはない。働きすぎの人たちにとっては無理難題だが、彼はすでにリタイアして20年。特殊な
仕事をしていたおかげで年金は十分ある。何不自由なく暮らし毎日喫茶店でコーヒーを飲みながら住人との会話を楽しみにしている。外国から帰ってく
る人との接点もないし、都会で働く人との接点もない。1億分の800くらいの確率の病気を僻地に暮らす人間が恐れる。イタリアの女性がテレビイン
タビューを受けて返した言葉が格好良かった。「この国はコロナウイルスに怯えているのではない。パンニックに怯えているだけだ」